「親子でこそ観てほしい」風立ちぬ ナポリタンさんの映画レビュー(感想・評価)
親子でこそ観てほしい
「子供向けではないよね」
エレベーターの中で、鑑賞を終えた誰かの声が聞こえてきた。
確かに「子供には退屈なんじゃないか」と大人には映る作品だったかもしれない。
かわいいキャラクターだったり、単純な優しさだったり、運動会の行進に使われるような主題歌といったものはない。
厳格な家庭では、テレビのチャンネルを変えてしまうようなシーンもないことはない。
PTA的には絶賛おすすめの映画ではないだろう。
でも、わたしには親子に、いや子供にこそ薦めたい映画である。
理由はみっつ。
ひとつめは「美しいアニメーション」にある。
宮崎駿監督のつくる映画の空は綺麗だ。
細部にまでこだわって動くアニメーションには迫力と躍動感がある。
色や独特の遠近感には、リアリティよりリアルな表現力がある。
子供の頃に目で見た世界は、その後の美的感覚に大きな影響を与える。
せっかく宮崎駿監督と同じ時代に生まれて、大きなスクリーンで見れるチャンスがあるのだから、逃すのはもったいない。
映画の内容がわからなくても、きっと子供の脳には無音でもしっかりとした映像が焼きつくだろう。
映画館を出て見る空が、前よりずっと綺麗に見えるはず。
ふたつめは「子供は大人が思ってるより、ずっと大人だ」というところにある。
子供は大人が思っているより、ずっと残酷で、スケベで、周りの人の顔色をうかがっている。
親がどう思ってこの映画を観ているか、どんなリアクションを自分がすればいいのか考えている。
「子供には難しだろうな」と思うことが、もちろんすべてではないが、子供にはしっかり届いていたりする。
ちょっとした背伸びの練習にもなるだろう。
みっつめは「今わからなくてもいい」というところだ。
親子で映画館で映画を観る本数は以外と少ない。
その映画の中で大人になっても、じっくりと鑑賞できる映画はほとんどない。
「小さい頃に連れてってもらったな」なんて思いながら、レンタルショップで借りることもあるんではないだろうか(その時レンタルショップがあるかはわからないが)。
きっと、今と違った感想を持つはずだ。
「風立ちぬ」は星の王子様のように、この映画を見る歳、気持ち、経験などによって思うことは変わってくる映画である。
「なんで母さんがあの時泣いてたかわかったよ」「あの表情はこういう意味だったのかな」「退屈に感じたのは、自分の勉強不足だったんだ」なんて思ったり、思わなかったり。
子供の頃に連れてってもらってよかったなって、いつか思える日がくるはず。
たぶん。
70代や60代がこの映画を支えている。
どうしたって人には寿命がある。
いつかこの映画が失われた技術のようになる日が来るのだろうか。