「大きい苦しみ。」小さいおうち ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
大きい苦しみ。
ついに、山田洋次も不倫作品を描くようになったのか~?と
変な邪推をしそうになったけど、私的に従来の山田節だった。
直木賞作品である原作も(もちろん読んでないんだけど^^;)、
肝心のところ(手紙の云々)は、読者の想像に任せているらしい。
小さいおうちで起きた小さい事件が、大きい戦争にのみ込まれ、
生き延びた女中が晩年に遺した手記によって紐解かれていく…
回想でタキが東京で女中奉公をする行までは非常に面白い。
時代性もあってか、のんびりほんわかと気持ちが温かくなる。
タキがタイトルの小さいおうち(平井家)に奉公に就き、今まで
味わったことのないような生活と、自身が親身に可愛がられる
という二大幸福を手にしたことで、彼女の人生が変わっていく。
その前年に奉公先の小説家に言われた「気の利く女中になれ」
という言葉を訓示として胸に秘めているタキは、自分を信頼して
仕事を任せてくれる平井家の人々に尽くし続けるのだったが…。
あぁこのまま奥様が不倫などせず、戦争も起こらず、だったなら
タキにはどれだけ幸せな日々が続いただろうか。
そんな風に思ってしまうほど、タキの記憶の中の平井家は楽しい。
その後タキは何を決意して、生涯守り続けたのか。
前述した「肝心なところ」というのは、出征前に板倉に逢おうと
する奥様に対し、タキが手紙を書くことを勧め、それを預かって
タキが渡しに行ったものの、ついに板倉と奥様は逢えなかった…
という話なのだが、実はその原因を作ったのはタキで、手紙を
渡さなかった。というのが事の真相。ではタキは、どうして奥様の
手紙を渡さなかったのか。原作でも映画でも暈されているという、
様々な解釈ができる構成になっているのが今作の面白いところ。
因みに私の解釈は、タキはあくまで女中としての役割に徹した、
ということだろうと思った。愛する奥様の心中を察すれば、最後に
逢わせてやりたい、だけど逢わせるわけにはいかない、なぜなら
平井家の安泰をタキは守らなければならなかったから。不本意な
選択とは、人間としてひとりの女として、愛する人の為にどうする
のが良いか分かっていても、それが許されずできなかったことへの
後悔を遂に償うこともできず、ここまで生き長らえてしまったことに
哀しみを滾らせている晩年のタキの姿だったのだ、と思う。
気の利く行動をとったつもりでも(私もああするしかないと思うけど)
その後の奥様の運命を思うと…自分の行動があれで正しかったか?
と、タキは悔やんでも悔やみきれなかったと思う。
大好きな(敬愛する)奥様の想いも、板倉から頼まれた奥様のことも
結局守ってあげられなかったわけだから。だけど、
その後、探し当てた坊っちゃまの言葉に救われる。全くその通り。
タキがそのことで苦しむことなんて、なかったのだ。
平井家での出来事、実際は夫も子供も気付いていたかもしれない。
(あれだけ大っぴらに行動してればねぇ)
防空壕での姿を聞いた時、息子を疎開させ、夫婦であのおうちに
暮らしていたことが分かって少しホッとした。悲しい結末だけど。
(しかしホント申し訳ないけど、吉岡くんは愛人面じゃないのよねぇ)