「これは監督からの観客へのちいさなプレゼントかな?」小さいおうち Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
これは監督からの観客へのちいさなプレゼントかな?
この作品を観た印象を一言で表すならば、1番に浮かぶ言葉それは、「東京家族」の続編。
山田監督の前作は、言わずと知れた小津安二郎監督へのオマージュとして製作された「東京家族」。
あの作品は舞台を現代に移してはいるものの、セリフ等も同じシーンもあり、前半かなりの部分では、小津監督の「東京物語」をそのままリメイクした様な香が漂っていたと思う。
この「小さいおうち」の舞台は、現在であっても、やはり回想シーンで描かれている物語の大部分は戦前が中心となる。
そして「東京物語」がそうであった様に、ある一つの家族の生活風景を描く中で、その時代を精一杯に生きた人々のマインドや、時代の空気を自然に焙り出していく。
そんな手法で物語を描いていく点で、この「小さいおうち」が描いている時代は、戦前なので正に、「東京家族」の前篇と言った感じなのかも知れない。
妻夫木聡演じる甥っ子の健史が、タキの自叙伝の執筆に、色々とチャチャを入れるシーンが多い。
その健史のそのセリフが、戦後教育を受けた現在の日本人の価値観と常識を表し、戦前に実際にその時代を生きて来た人々とのジェネレーションギャップと言うものを、健史の話すあのセリフで表現しようと、山田監督は試みていたのだろうか?
何とも、あの妻夫木のセリフが、いちいち説教臭くて、それまでの回想シーンの柔らかな物語の風情が途端に途切れてしまう事が、度々あってイライラがあり、私には正直邪魔で欲求不満が募りました。
そして、ラストの海岸のシーンも、無い方が良かったと思ったな。年老いた平井恭一が今更母親の過去を知りたくなかったと言うのと同様に、健史とその彼女らは、板倉が実は戦後無事帰還し、あの白い小さなおうちの思い出を作品に残して描いていたと言う処に留めておいても良かったのではあるまいか?
私は、原作未読なのでその辺りが元々どう描かれていたのかは不明です。
それにしても、同じ戦前を生き、姉妹でありながら全く正反対のキャラクターで有った時子と貞子と言う人間の生き方がとても面白いではないか!
平井時子は、一見おっとりのんびりで、世間の常識には決して左右されはしないが、天然ボケキャラの様でいて、その実、戦前の裕福な家庭の貞節な主婦である筈の時子の立場では絶対に、有り得ないような不倫と言う大胆な行動をする。
こう言う理屈抜きの人間の二面性こそ面白い。世間体を第一番に気にしていた、教育ママの貞子が呆気なく、国防婦人の権化の鏡の様に変貌を遂げるのも、可笑しくて、妙に腑に落ちるシーンでもあった。
それにしても、寅さんでは、妹さくらを演じ続けて来た倍賞千恵子も、本当におばあちゃんの役がぴったりのお歳になられて、時の流れの速さを実感させられた。
だが、それにしても倍賞さんは、本当に本物の映画スターですね。幾つになっても華が有り、「すべては君に逢えたから」でもそうだが、彼女がスクリーンに登場すると画面の空気がガラリと変わって、締まる。それでいて前回のパティシィエでもそうだけれど、本当にその演じている人物の人生を生きて来たように感じさせるのだから、映画スターとは本当にどえらい職人ですね!