嘆きのピエタのレビュー・感想・評価
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【”壮絶なる母の愛と復讐。そして、母の愛を知らずに育った冷徹な男が全てを知った時の選択。”今作は、故キム・ギドク監督が内包していた非人間的要素と、人間的要素を表現したかの如き作品である。】
■生まれてすぐ親に捨てられ、天涯孤独の30年を生きてきたイ・ガンド(イ・ジョンジン)。
母の愛を知らずに生きて来た冷酷な借金取り稼業の日々を送る彼の前に、突如母親を名乗る女ミソン(チョ・ミンス)が現れる。
無償の愛を注ぎ続けてくるミソンに、初めは疑っていたガンドも心を開き始めるが、その矢先に彼女は姿を消す。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・2重の母性愛を持つ女を演じるミソンを演じたチョ・ミンスの姿が、鬼気迫る。
・イ・ガンドが、突然母だと言って近づいて来たミソンを最初は怪しむモノの、母の愛を受けずに暮らして来た彼は、ミソンの周到な仕掛けに嵌って行く。
■秀逸なのは、冒頭イ・ガンドが債権者から非情なる取り立てを行う工場に有った鉤の付いたチェーンが、ラストに再び現れるシーンである。
更に言えば、ミソンがイ・ガンドの誕生日の為に縫っていたセーターの見せ方であろう。
<今作の、イ・ガンドに対するミソンの姿は、イ・ガンドの取り立てによって命を絶ったサングへの母性であり、それが劇中、ミソンが憎むイ・ガンドに対しても母性の発露が見られるような構成である。
ミソンは誘拐された振りをして、廃屋のビルからイ・ガンドの眼前に身を投げ、息絶えてイ・ガンドが生前のミソンに頼まれて植えた木を彫るシーンも強烈である。
ミソンとミソンの本当の本当の息子であるイ・ガンドの執拗な取り立てにより自死したサングのミソンが編んだセーターを着た死体。
その二つの死体の脇に横たわる、只一人の生者であるイ・ガンドの姿を、空から映したショットの秀逸さには、驚く。
ラスト、且つてイ・ガンドに対し深い恨みを持っていた女性が運転するトラックの下に潜り込み、鉤の付いたチェーンで身体を縛り、走り出したトラックの後にイ・ガンドの血が川のように道路上について行くシーンは、正にピエタを彷彿させるシーンである。>
復讐であり贖罪
「恨(ハン)」というナショナルな思考様式を文化的背景に持っていることも作用してか、復讐を主題に据えた韓国映画の力強さはマジですごい。点在する憎悪はやがて一振りのナイフへと研ぎ澄まされ、作品そのものに死というピリオドを穿つ。そこにカタルシスの恍惚はなく、どん詰まりの虚無感だけがある。
手ブレの多いざらついたカメラワークは復讐の自家中毒に陥った人々の錯乱ぶりを如実に示しており、小説で言うところの「信頼できない語り手」的な危うさが物語のサスペンス性をさらに倍加する。その間断に挟まれる緻密で正統的なロングショットはさながら宗教画のような崇高性と啓示性を湛えている。特にラストシーン、夜明けの幹線道路を走る軽トラックが血の轍を描き出すシーンは美しいほどに悲劇的だ。
ピエタとは聖母子像の一種で、磔刑に処され事切れたキリストを抱え上げる聖母マリアの彫刻や絵画を指す。しかし本作では孤独なキリストを抱え上げるはずのマリアは彼より先に没し、残されたキリストは自らに注がれるはずだった哀れみと慈愛を求め亡霊のように彷徨う。彼が自分に(間接的にではあるが)引導を渡してくれる相手として、自分がかつて不具にした男の妻を選ぶあたり、彼がいかに母性に飢えていたかが窺い知れるというものだ。
冷酷に他者を傷つけ時には命まで奪ってきた男が女性蔑視の一形態に過ぎない母性神話に縋り付いた果てに悲惨な末路を辿る、という流れは社会倫理的に考えて至極当然の因果だ。しかし土の上に頭を擦り付けながら「母さんだけは助けてくれ」と叫び続ける彼の姿を見た女が「彼も可哀想」と涙を流す一幕には、折り目正しい社会倫理では掬いきれない個人倫理の儚い燐光が煌めいている。女の自殺は、男に自分の本当の息子を殺されたことへの復讐でもあり、同時に自分を本当の母と信じて泣き叫ぶ男への贖罪でもあったのではないかと思う。しかしそれが結果的に彼の命を奪う契機になってしまったというのがこの上なく悲痛だ。
あまりにも悲しい物語
人の心を持たない残忍なやり方で借金を取り立てて、大勢の人から恨まれている、天涯孤独の男。
そんな男の元に母親と名乗る女が現れた。拒絶しても辛くしても無償の愛を捧げてくる女に、少しずつ心を開いていく男。
その結末のかなしさは壮絶なものだった。
男は人の心を取り戻したがために、もう愛のない暮らしには戻れないのだろう。
この悲しい死に方にも彼の償いの気持ちが滲み出てより悲しくなった。
再見(2012年9月6日)
正直これを見てその後キム・ギドクを見るのをやめたくらい衝撃作品。何よりも重く美しさの欠片もない。最初見たときのメモには儒教的母子観における母性の欠如とその普遍性が描かれていると思ったが、今回の再見で新たな発見があった。母性は復讐へ向かうと厄介なものだがそれでも母性はそれ以上の普遍性を持つことをこの映画を通して知ることになる。母性は復讐として効果的だがそれでも誰からも否定されえない属性であることが開示された。罪も罰もなく救済と許しが最後には描かれるが、そこには見る者への媚びは微塵も感じられない。それ故に作品的な救済はなくカタルシスもない。あるのは混とんたる現実のみである。
壮絶な母の愛
久々に映画を観て泣きました。
壮絶な母の愛と親からの愛を求める孤独な心。
愛を知らずに育つと、人はここまで残忍になれるのか。
そして初めて知る愛は人をここまで変えてしまうのか。
壮絶なエンディングに涙します。
しょっぱなから始まる、丑島君的高利貸しの借金取り取り立てが非常にエグくて観いて辛いですが、心をえぐり取られる名作です。
そして辛くて二度と観たくない名作かな。
ママ
ところどころカメラがブレたり、「こんな雑なズームある?」という寄り方だったり、不思議な映像が入る。どこにも視点が定まっておらず、なんか安っぽくみえて、奇妙な時間が続く。
と思ったら母親が何か企みはじめて、ああそういうことかと。借金取りの鬼が心を鎮めていく過程は息もできないを思い出しましたが、こちらもきちんとバッドエンド?に着地してた。
というか主人公ガンドは母親が債務者の母親だったと最後に掘り出したセーターの男から気付いたでしょうから、そこで絶望ではなく騙された怒りが起こるのかなと思いましたが、まあこの時点で悲しみを取り戻した人間になっていたということなんすね。トラックの下での自死の選択は少し疑問が残った。最後の血を曳くトラックシーンはよかった。
天晴
冷酷冷徹、悪魔とさえ罵られるガンド。
そんな彼に、面影も知らない母親が現れたからといって、
何が変わるのかと思ったら、全く逆の真人間になるという、
ホントにそんなのアリ?とは思いましたが、
それだけミソンの愛情は大きかったのです。
母は偉大だと本気で思いました。
ところが、ガンドが夢精するシーンが2回あるのですが、
2回目はミソンが「手伝って」、手に精液が付いてしまいます。
ここでミソンは手を洗うのですが、
その顔の険しいこと、ここで「おや?」と思うのです。
「こいつはひょっとして・・・」という振りでして、
その後ガンドの誕生日(ミソン曰くなので多分でたらめ)に、
ガンドにケーキを買ってこさせといて、
ミソンはいつも編んでいたセーターを持って出かけてしまいます。
更に「おやおや?」となってきます。
この「おや?」の増幅が話を引っ張ります。
遂にミソンは最後の「大芝居」に出ます。
これが自作自演のホントに「大芝居」で、
ガンドはなんで気づかないのか不思議なんだけど、
それもミソンの前振りがよく出来ていたからなんだと思います。
そう、ガンドの母、というのも「芝居」だったのです。
何故そんな「芝居」をミソンはしたのか、
やはり、母は偉大だ、と言わざるを得ません。
ラスト直前の廃墟のシーンで、
ある債務者の母親が出てきたシーンは「まさか!」と思いましたが、
そこも見事に裏切られました。
導入からはここまでミステリーになるとは考えられず、
結論良い話に着地するとは思えない展開には、
日曜の朝並の「天晴」を進呈したいです。
ずっしり重い
30年ぶりに再開した親子が息子の仕事を知って愕然とし、親自ら身をはって子供に愛を説いていく物語。
突然息子の前に現れた母親。最初は不気味だったけど次第にまともな人間の心を持った人だとわかり安心した。
もし、母親まで息子の肩をもって協力するような人だったらこの重く暗い作品に追い討ちをかけるような暗さになる。
唯一の救い母親が正常な心であったこと。
でもなぜ息子を見捨てたのか?
30年の間どこでなにをしていたのか?
この謎は謎のままだった。
激烈で見るに耐えないくらい凄い
物語のからくりが何となく途中で分かるようにさせて、それがまた辛辣な感情を生み出して、とにかく見ているごとに辛さが増していく激烈な作品だった。このような嫌な題材は、悲しいかな世の中にはたくさん存在するだろうけれど、この物語の創造性は並大抵のものではない。これほどまでにクライムな映画は皆無なような気がする。
残酷‥でも切ない
息もできないもそうだったけど
取り立て方が残忍過ぎて見てられないとこも多々多く
この映画も最初はそんな感じで見ていて
30年ぶりに母親を名乗る女性が現れ
徐々に心を開いていくが‥
そのさきは切なさだけが残るというか
ラストがマジで~の連発でした
ずーと切なかった↓↓↓
甘えん坊
強烈だった。韓国映画好きだけどキム・ギドクは何となく難解でエグそうで避けて来たので今回が初作品。全然難解ではなくて息子と母親の心理描写に迫ってて面白かった。
母親はずっと泣いていて、息子はどれだけ粋がってても、母親の前では甘えん坊になり信じてた芯みたいな物も簡単にポキッと折れてしまうところになるほどなと納得した。
血の通わない冷徹なロボットが母親を通して人間に変わり悔いて奔走する様が良かった。
母親役の人の演技がスゴく上手かった。
台詞を言わなくても表情が全てを物語っていた。息子の母親に対する愛情と母性の深さに暗い話だけど温かい話でもあった。
10日で撮影したのもすごい。
特典映像の監督インタビューで「システムの中で生きることと常にバランスをとることに悩むけれど、人間の動物的な部分に惹かれる」と話していてまさにそれがこの作品の魅力かと思う。
最初に残忍なエピソードを重ねるので主人公の変化が少し単純な気はするけど、物語の深さに、観る人をあそこまでもっていってくれるならそこに時間をかける必要ないんだと思った。
終盤でタイトルがじわじわ効いてくる。
ギャグもさりげなくていいし、何よりガンドかわいい…セーター着たいとかかわいい‼︎
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