劇場公開日 2015年7月11日

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「蛭、亀、サイ」サイの季節 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0蛭、亀、サイ

2015年12月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

物語の根底には、1979年のパーレビー国王の亡命によって達成されたイランイスラム革命の最中に起きた男女の愛憎がある。この革命運動によって、従来の主従の関係が逆転して、それまで鬱屈していたものが噴き出す。
こうした、社会的立場の逆転により、抑圧されていた人間の醜い欲望が現れるのは、中国の文化大革命を題材とする作品でよく見るものだ。
この作品でも、醜く弱い者たちの暴走と、その衝撃が人の心に惹き起こすものを、演出的な画をつなぐことによって描いている。

男たちの背中に貼りついて血液を吸う蛭は、まるで東洋医学の鍼灸治療にも似た施術。このようなものがあることを初めて知ったが、案外世界中で行われているのだそうだ。
この蛭のほか、空から亀がたくさん降ってきたり、荒野をシロサイが走っていたりと、生き物でイメージを膨らませる演出が時折現れる。蛭のシーンは現実のものとして描かれているが、亀とサイは現実世界のことではなく、登場人物の意識を表すものとして現れる。
こうした心象を抽象的に表現するシーンが多く、物語の本筋を追うことが非常に難しい作品になっている。しかも、イスラム圏ではお決まりの男性の口髭のおかげで、登場人物の区別も難しく、はじめのうちはモニカ・ベルッチの夫と彼女に横恋慕する男の現在・過去の見分けができずに、4人(現在と過去それぞれの夫と横恋慕男)の人物の関係を把握することで精一杯だった。
もう一度、機会があれば観てみたい作品である。今度は、物語論的なものを追わずに、説話論的なものを注意深く見つめる余裕を持ちたい。
イスタンブールのロケに関しては、あの街のランドスケープとサウンドスケープに浸るという、小さな旅が味わえて良かった。

佐分 利信