「「お前は強い」と信じる/信じ続けてあげること」アーロと少年 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
「お前は強い」と信じる/信じ続けてあげること
……あの……その後、農場は大丈夫だったの……?
というツッコミが頭を離れず鑑賞後どうにもモヤモヤした点が一番の不満点なのだけれど、
今回のピクサー最新作は、彼らの過去の名作に勝るとも劣らない良い映画でした。
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『カーズ』『ファインディング・ニモ』でもコミカルなキャラと実写顔負けの映像が
同居している点にビビった記憶があるが、その点は今回益々もってスゴい。
特に、水の表現に関しては驚きで目を見張るレベル。川に流されたアーロが目を覚ますシーンの浅瀬の
水面なんて絶品である。実写みたい!という感想を飛び越えて、実写よりも美しく思えるくらい。
陽の光が降り注ぐ山々や雷雨の中を疾走したり、翼竜ギャングとの対決などの動的な見せ場もグッド!
特に牛飼いティラノ3匹との場面は西部劇テイストでユーモラスだし、迫力あるアクションにもワクワク。
リーダー・ブッチが渋くて良いわあ。アーロの父と同じ言葉でアーロに勇気を与える役回りもステキ。
けど、乗馬してないのに「ヒィヤアッ!」て掛け声の意味は(笑)。
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軸となるアーロの成長のドラマもしっかり。
家族でいちばん小さく臆病で、親の期待に応えたいと願ってはいても、本能的に逃げ出してしまうアーロ。
アーロより小さく力も弱いが、その機転と勇気でひとり過酷な環境を生き延びてきた少年。
アーロは少年から、大きさや力に依らない強さ、恐怖を乗り越えて飛び出す勇気を学んだ。
前半以降の少年の活躍が少なかったり、少年よりアーロの成長に比重が
置かれていて、後半で少年の存在感が薄れてしまった点は残念だが、
それでも別れの場面、ぐるりと地面に家族の輪を描くシーンで涙ボロボロ……,。
父との最後の再会もね……ええ、もう泣きに泣きましたよ、どんだけ水分を奪うんよこの映画。
父の進もうとする道でなく、自ら道を選んだアーロ。あの時ようやくアーロは独り立ちできたんだろう。
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ファミリー向けではあるが、ややハードな部分も。
父の死に対する後悔だけでなく、そこから生じたトラウマも乗り越えなければいけないという二重の試練が
アーロには待ち構えているし、可愛い小動物を丸呑みにする凶悪な翼竜も登場する。
特にアーロの父の死は印象的だった。
彼の死は、彼自身が追跡を中断しなかったのも一因。アーロと同様、親もまた、完璧な存在ではない。
そこが説教臭く無いし、感情的な深みもあって良い。
親は、子どもの未来に大きな期待を抱くもの。
小さなアーロの生まれ出た大きな卵……あれはそのまま、父と母が子に抱く期待の大きさだったんだろう。
残念ながら、生まれてきた子の能力が、親の期待に沿うものとは限らない。
けれど、期待と違っていても、その子には親とは違う伸ばすべき長所があるかもだし、
その子を強くする方法も、親の知る方法が最良とは限らないのかもしれない。
最良の方法なんてそうそう分からないが、少なくとも「お前は強い子だ」と信じて励まして見守り続ける
人がいてくれることは、子どもにとっては倒れても挫けてもまた立ち上がる勇気に繋がると思う。
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で、ここで最初の不満点を蒸し返すワケだが……。
この映画、アーロの精神的な成長の描写は申し分無かった。しかしだ、
彼は精神的には強くなったが、体躯は兄姉よりも小さいままだ。
アーロが少年の見せた知恵を応用して体格の差を補うなどのシーンがあれば良いけど、
彼がその精神的な成長で家族の窮状を救い、父の死を皆で乗り越えるという部分が描かれない。
僕はそこが鑑賞後のフラストレーションに繋がってしまった。
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だけどやっぱ、ピクサー作品ってすんごいレベル高い。一時期は続編・スピンオフを乱発して
イマイチだったがそれすら水準以上だったし、ここ最近はまた秀作を連発してて恐ろし。
というわけで、大満足の4.0判定です。『インサイド・ヘッド』と
同じスコアを付けたけど、個人的にはこっちの方が好みかな。
次回作は『ファインディング・ニモ』のスピンオフだが、
良い流れを維持できるかしら。今からワクワク。
<2016.03.12鑑賞>