「踏み越える」偽りなき者 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
踏み越える
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怖かった。
マッツのヴァルハラより、こういう普通っぽい話のほうがよっぽど怖い。
幼児虐待の疑いをかけられた男。
周りの人々は、「悪意」ではなく「正義感」ゆえに、彼を追いつめていく。
「自分達は正しい」と思い込んでいる集団の怖さ。
園長先生のリアルさなど、ほんと、いたたまれない。
観ながら「こんな町、捨てて逃げちゃいなよ。別の所で再出発しなよ。そっちの方が幸せだよ」と何度も思った。
でも、マッツは逃げない。意地でも町に居続ける。
逃げずに対峙することで、我が身が「偽りなき者」であることを、判ってもらおうとする。(教会のシーンが凄くイイ。)
判ってくれる人もいる。
判らない人もいる。
疑いは完全には消えない。それでも彼は町に居続ける。
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終盤、疑いの発端となった幼児クララとマッツが向き合う場面がイイ。
彼はクララに、こんな言葉をかける。
「何本も線を踏み越えていかなくちゃいけないんだよ」と。
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ラストシーンで、一度押された烙印は消せないんだという非常にシビアで冷酷な事件が起きる。残酷だなと思うのと同時に、
「何度でも踏み越えていく」という言葉と、教会のシーンが頭によぎる。
何度疑われても殺されかけても、逃げずに対峙していく。踏み越えていく。
人の覚悟、尊厳を見た気がして、その強さに圧倒された。
(尊厳なんて文字で書くと、途端に嘘くさくなってしまうけど、この映画はシビアな映像でそこに辿りつこうとするから、嘘っぽくない。)
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