劇場公開日 2013年3月16日

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偽りなき者 : 映画評論・批評

2013年3月12日更新

2013年3月16日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー

現代の魔女狩りのドラマ、その驚くべき純度の高さ!

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観客に手に汗握るスリルを提供する映画には、以下のようなお決まりのパターンがある。「事件に巻き込まれた主人公が、為す術もなく絶体絶命の窮地に陥っていく」。同時にそれは、たいてい「主人公が捨て身の反撃に出る」クライマックスへの前ふりでもある。

デンマーク映画「偽りなき者」はスリラーでもアクション映画でもないが、まさに上記のプロット・パターンに則った緊迫感みなぎるドラマだ。しかし本作の興味深い点は、事件の背景に謎も陰謀も存在しないことだ。幼い少女がたったひとつの嘘をつく。そんな些細な出来事を発端に、主人公はあれよあれよという間に地域から孤立し、変質者の烙印を押されてしまう。映画はそのプロセスを、序盤の十数分で簡潔かつ明快に描く。それゆえに主人公の“為す術もない”危機的状況の深刻さが、このうえなくダイレクトに、どうしようもない絶望感とともに伝わってくる。現代の魔女狩りの標的となった中年男は、想定しようのない速度と強度の凄まじい精神的、経済的、身体的ダメージを被っていく。

では主人公が“捨て身の反撃に出る”場面は訪れないのか。いや、存在する。打ち倒すべき敵も解明すべきミステリーもない主人公には、題名に掲げられた最後の心のよりどころが残っている。すべての情報を“偽りなく”提示するこの映画は、主人公を取り巻く身近な人々のリアクションもつぶさに見つめ、観る者を容赦なく動揺させ続ける。そして手に汗握るスリルをはるかに超え、驚くほど純度の高い、恐ろしくも厳(おごそ)かな感動を呼び起こすのだ。

高橋諭治

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