アルマジロのレビュー・感想・評価
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人が死にゆく瞬間
デンマークの戦場ドキュメンタリー映画。
アフガニスタンに派兵されたデンマーク兵の日常と戦場を映す。
【ストーリー】
アフガニスタン民主共和国南西部に位置するヘルマンド州ゲリシュク。
デンマーク陸軍が駐屯する基地"アルマジロ"。
そこに派遣された数人の兵士をメインに、カメラは現地での生活と戦闘を代わる代わる写してゆきます。
最新の装備に固められた機動部隊が、たった三名の潜伏したタリバンによって数時間足止めされてしまう。
狙撃してくる敵の居場所がわからないため、みな遮蔽物のこっちがわでくたびれた顔して航空支援を待つ。
『ジャーヘッド』でも語られた、戦場でほとんどの時間をしめる不便な退屈さと、不意を突かれて撃たれた瞬間から死の恐怖に襲われいきなり緊張MAXでの戦闘。
そのギャップが、よりリアルに観客に迫ります。
この映画の芯の強さはもちろんドキュメント撮影された映像の強さそのものなんですが、DVD特典映像には負傷して後送される若い兵士の短い映像があります。
首を撃たれてかなりひどい出血で、彼は搬送先で死亡が確認されました。
本編ではないとしても、よくぞ収録できたなあという重すぎるシーンでした。
人類史では銃が発明され、戦場に導入されて兵士の損耗数が一気にはね上がったそうです。
それまではひどくても三割が死傷すれば勝敗がついた戦場が、最悪全滅するまで戦うことになる殲滅戦となってしまった。
戦場の質が変わってしまった。
そしてその傾向はどんどん増してゆく。
これは銃だけではなく、近代兵器すべての作用によるものでしょうけれど。
自分には人類のあり方や未来を語るような知性も知識もないので、なにかを糾弾したいわけではないのですが、こんな映像があっても人類は戦争をやめないのですから、そろそろ戦争反対のシュプレヒコールよりも有効な手段を発明したいですね。
争うにしても、死や破壊をまき散らさない、なにか別の方法で戦争を代替したい。
負けたら週末のバーでチクショーとくやしがるぐらいの、肉体の傷つかない争いにとどめてもらえないものかなと。
声が出たら負け、わきの下くすぐりファイトクラブとか。
自分はガンアクションや戦争映画は好きですが、実際の戦争は本当に怖いので、ぜったいに巻きこまれたくないし、それが遠い世界でもやってほしくないです。
後半、お気楽なことばっかり書きましたけど、あの特典映像こそが、多分この映画の本質の一つなのだと思います。
あの映像に関しては、さすがに視聴をおすすめはしません……。
人が麻痺していく感覚
壮行会でストリップに騒いだり、戦場の夜にパソコンでポルノ観賞したりと普通の成人男性の様子も描かれる。親から反対を受けながら戦場へ向かう若者メス。戦争ゲームから夜の現場にシームレスにカメラが切り替わるのゾッとした。実戦の最中あちこちから声が飛んで、敵と味方の区別が分かんなくなるくらいパニックになる。キムカメラ臨場感すげ。死体を引きずり出す。民間人に隠れるタリバン兵。片撃たれた兵士の絶望感の顔が、その後療養に訪れた時の晴れやかな顔との対比が凄まじい。実戦の後基地に戻った兵士たちの高揚した開放感が、バイクウィリーで駆け回ったり河に飛び込んだり独特のテンションで印象的。
あまりにも洗練されすぎている
デンマーク軍の強力な協力があったであろうと推測される作品。実際の戦場、カメラの設置箇所、兵士の会話、現実とは思えないほどの密着度を感じた。
編集なども巧みで、洗練された劇映画を見ているよう─。作っている─というか、再構築している部分は多いだろう。例えば、兵士の会話のシーンにおいては、カメラ位置やアングル、画角といったものは明らかな事前のすり合わせが見て取れる。真実といったものを伝えるための再構成であることは明白で、特段やらせなどとは思わない。しかしながら、あまりにも劇的すぎて、他の戦闘シーンなども再構成したドラマなのでは!?と疑いたくなる。例え作られたものであったとしても、描かれていることはすべて事実であり、ドキュメンタリーであることは疑いようもない。
ただ、視点があまりにもデンマーク軍オンリー過ぎはしないかと思わざるを得ない。その思いのせいで、軍の多大なる協力というものを想起してしまうのだが、あるいは軍の関係者が制作していて、これは半ばプロパガンダ的要素も含まれてるでは?との飛躍した想像をもしてしまう。
自分は今でも戦争は完全否定するし、決して戦争などには行きたくも参加したくもない。
しかし、自分などよりももっと未来がある若者がこれを見たらどう思うのか─。戦場への抵抗を減殺してしまうのではないかと危惧してしまう。
これは、あくまで戦争の一面を切り取っているだけで、戦争そのものを描いているものではない。
映画としての完成度は非常に高く、興味を削がれることなく、最後まで観賞できるはず。それ故に“ドキュメンタリー”という名の冠がたちの悪いものに見えてしまう。
映画館が主体となってWEB上で自らの権利作品を流すことには、感謝・賛嘆の念しかありません。アップリンクにはこれからも足繁く通い続けます。
気が遠くなりそうな非対称性
吐き気がする戦後70年談話の後、
怒りのままに無料配信中の『アルマジロ』。
……ふむ、こういう作品だったのか。
キャッチ通りに「これが、戦争だ。」
と捉えるのはかなり危うい。
時折、楔のように差し込まれる、
気が遠くなりそうな非対称性をこそ
意識したいドキュメンタリーだった。
戦争とは
アップリンクの粋な計らいで、終戦70年記念無料配信されているのを観ました。
サッカーの試合でどうやってゴールを決めたのか話すかのように、どうやってタリバン兵を仕留めたのか興奮気味に話す若者達が印象的でした。
どう見ても普通の若者なんですよね。
いろいろ考えさせられる
現地の人には全く歓迎されてない国際治安維持活動,一般市民と見分けが付かない敵(タリバン民兵)への恐怖,実際突然はじまる戦闘で極まる混乱と興奮.いろいろ考えさせられる.映画公開を認めたデンマーク軍,政府にも驚く
「非現実的な」本当の戦争
意外に知られていないのだが(というか私もこの映画を見るまで知らなかったが)、デンマークはアフガンの治安維持に積極的に参加する国の一つだという。徹底的なメディア規制を行っているアメリカなどでは撮影が許されるはずもない。デンマークという国だからこそ成立した戦争ドキュメンタリーだ。
このドキュメンタリー映画の最も優れている点は、様々な戦争映画が個々に描いてきた要素をほぼすべて持ち合わせていることだ。「愛する人との別れ」「“刺激的でない”前線での毎日」「戦闘時の恐怖」「戦闘から得られる“実感”」。劇映画と違って、すべてが実際にあったことだ。だから一つ一つの、たとえ日常的などうでもいいことでも妙に生々しさがあり、言葉では語り尽くせない緊迫感がある。
印象的なのは「前線での退屈な日常」と「戦闘の興奮」だ。前者はサム・メンデスの「ジャーヘッド」で取り上げられていたテーマだが、断然こちらの方がリアルだ。兵士たちの会話から、彼らがいかに戦闘を待ちわびているのか。そしてそれが「実感のなさ」から生まれたものだということが、克明に描かれている。
後者は「ハート・ロッカー」など最近の戦争映画で好まれるテーマだ。兵士たちが互いにアルマジロ基地に来た理由を語る場面があるのだが、彼らに共通するのは「実感を得るため」。いや「ハート・ロッカー」のジェームズ軍曹ほどではないが、彼らもまた戦闘時の興奮を期待している。
逆説的だが、彼らがそう考えるのは戦争がリアリティを失っているからだ。この映画では兵士のヘルメットにつけられたカメラで、意図的にミリタリーゲームのような映像を作り出しているが、まさにそれだ。劇中、デンマーク軍が敵をはっきりと目視する場面は皆無であり、戦闘のほとんどは遠距離からの射撃だ。ドキュメンタリーなのに「リアルでない」戦闘の事実を映し出しているのだ。
しかし戦いの後の興奮は本物だ。タリバン兵を撃ち殺し、相手を打倒したという勝利の実感。幾人かの兵士は負傷したことで、死の存在を認識し呆然としている場面もあったが、数日もしたら彼らも元通りだ。そんな兵士たちを見ると、恐怖に勝るその感情はどこから出てくるのか問いたくなる。「アルマジロ」で描かれるのは外面的な事実のみであり、兵士の内面の変化には迫ってこない。
この映画自体、矛盾を孕んでいる。劇映画的な演出をしているのにも関わらず、個々の兵士はあくまで一例としてしか取り上げられないから、監督の主張が見えてこない。感覚が麻痺し切った戦争を「これが事実だ」として見せられたとしても、多くの観客は発展した考えを持てないだろう。当然、ほとんどの人は戦地を経験していないのだから。
とはいえ、この映画は戦争ドキュメンタリーとしては歴史に残るものだ。誰の側に立つこともなく淡々とカメラで追い続けることで、善悪の境界を曖昧にしている。その最たる例は、瀕死のタリバン兵に追い討ちをかけたかどうかを描いたことだ。もちろん国際法で禁止されているが、彼らの言う通り戦闘時にそんなことは考えてられない。「生きるか死ぬか」の世界では一瞬の油断が命取りだ。かといって、死体を粗雑に扱う彼らの姿は褒められたものではない。事実、このシーンが戦争の異常さを最も良く表していた。戦争は人を麻痺させる。それだけをリアルに映し出したドキュメンタリーだ。
(13年3月28日鑑賞)
圧倒的な戦場ドキュメンタリー
僕は漫画家でお話を作る商売をしており、その際心がけとして、なるべく現実の写し絵として、読んだ人と地続きの世界であるものを描こうとしている。そこにホラー的な要素があったり、お化けが出たり、超能力を描くこともあるけど、もしそれが現実のこの世界で起こったことならというような心がけをしている。
戦争映画を描くとしたら、本当に戦場で実際の場面をフィクションで描けたらすごいリアリズムで描けるだろうと思う。
この映画では現実の戦争に密着取材をしているのにカットや編集があまりにかっこよく、しかも超最前線にカメラが同行しているため、あたかもフィクションの如くリアルで面白く、本当につくりなんじゃないかと錯覚させてしまうほどなのであった。
展開されるドラマがまた、個人目線のシビアで現実的な国際問題であり、戦場での命のやりとりであり、悲惨な現実であり、そこにはスリルと興奮もあった。とんでもないドキュメンタリー映画だった。
自衛隊を国防軍にすればどうかといった問題もまた地続きの問題であり、とても考えさせられた。
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