「邦題の安っぽさに、誤摩化されず見て欲しい」人生、ブラボー! CRAFT BOXさんの映画レビュー(感想・評価)
邦題の安っぽさに、誤摩化されず見て欲しい
本作の主人公は、40歳を過ぎてもまともに仕事もできず、家族から与えられた仕事も満足にこなすことができないグータラな中年男。その上、8万ドルもの借金で首が回らないし、妊娠した彼女からは子どもが生まれても父親として認めるのをためらわれてしまう始末。
そんな彼は、学生時代にある事情からお金が必要になり、693回も精子提供をする。映画の冒頭は、そんな学生時代の主人公が、病院の個室で一人でオナニーを繰り返すシーンから始まる。
そんな主人公が、20年後に突然、142人から訴えられる。693回の精子提供のうち、何と533人の子どもが出来ていた。そのうちの142人が実の父親の身元を知るために、情報開示請求の集団訴訟を始めたのだった。主人公は精子提供する際、身元を隠すために「スターバック」と名乗っていたため、「スターバックの子ども達、彼らの父親は誰だ!」とマスコミで大騒ぎになる……
このドラマのテーマは、徹底して「父の役割」「父親が子ども達から与えられるものとは」という父性だ。主人公はロクデナシだが、誰からも愛される。主人公の父親は、グータラな主人公を口汚く罵るが、とても愛している。それは、主人公の人間的魅力を愛しているからだ。
主人公もまた、142人の子ども達との交流を通じて、父親としての自覚を芽生えさせていく。142人の子ども達の多くは、母親や育ての親への不満から父親を捜している訳ではない。しかし、142人が家族として知り合い、助け合い、語り合うことで、それぞれの人生を前に進めていく。そこにあるのは、血縁だからという薄っぺらい人間関係ではなく、家族の本質とは何かというテーマだ。
そして、主人公は、567人目の子どもの父親になる決意を固める。
個人的に「血縁」などというものは、人間の愚かな感傷でしかないと思っている。しかし、本作は、そうした血縁をテーマにしながら、単に血縁だけをクローズアップするのではない。自分の生まれた縁を知る事で、それぞれの人生の転機を迎えていく142人の子ども達には悲壮感はない。
見終わって大いに清々しい気分になるハートフルコメディだ。久しぶりに、出会えて良かったと思えるミニシアター系の映画だった。
なお、本作もまた邦題が悪い。原題の「スターバック」とは、カナダでは有名で優秀な種牛の名前らしい。まさに「種牛」である主人公にピッタリのタイトルだ。邦題を分かりやすくするにしても、「スターバックと567人の子ども達」とでもした方が、何倍もましだし分かりやすい。「人生、ブラボー!」では、あまりにも安っぽいし酷い。