「美しく、そして考えさせられる大作」オブリビオン silverspoonsさんの映画レビュー(感想・評価)
美しく、そして考えさせられる大作
自然の色遣いや人工物のデザインが美しく、よくある近未来もののSF映画とは一線を画す映像が一番のみどころです。可能でしたらぜひIMAXで、とお勧めしたいです。
ジュリアを演じたオルガの美しさもさることながら、ヴィカを演じたアンドレアの深い演技にも惹かれるものがありました。いったい、コピーのヴィカはどこまでオリジナルの記憶が残っていたのか、3人が同じ宇宙船のクルーだったことを考えると、切ないものを感じます。
また、サスペンス仕立てのストーリーの方も、結構考えさせられました。
冷酷な無人攻撃機「ドローン」、軌道上から地上を偵察・攻撃する無人の宇宙ステーション、勝利のために自ら地球を破壊することも厭わないという冒頭の設定(これは後で、事実に反するということになるのですが)、また、間違った敵を(当初は)深い考えもなく攻撃し続ける主人公の姿。
監督にその意図があったかどうかはともかく、近未来どころか、現在の状況を、よく反映しているように感じます。
地上にいたエイリアン「スカヴ」がエイリアンではなかったように、天空のエイリアン=人工知能も本当にどこかよそから来たのか怪しい気もします。終わったあとも、ひょっとして『ターミネーター』みたいに、元は人類が作りだした人工知能じゃないのかという疑惑がぬぐえませんでした。
そこはいちおう、ビーチの説明通り突然現れたエイリアンだとしても、トム・クルーズ演じるジャック・ハーパーはいみじくも言います。エイリアンの武器はドローンではなく、(人間である)自分なのだと。
ラストシーンも、単なるハッピーエンドと受け止めていいのか、一筋の疑念がよぎります。
劇中、ジャックが手にした本は,人はいつかは死を迎えるということについて書かれたものでした。途中、湖畔の小屋で、ジュリアには理想の死について語ります。
では最後に現れたジャックのことはどう解釈すればよいのでしょうか。彼はジュリアの夫だったジャックなのか、そうだとすれば、なぜそう言えるのか。それとも同じ身体、同じ記憶を持った別人なのか、では、記憶を失い(これはこの映画のタイトルですね)、別の記憶をもったらどうなのか。
人間が愛によって生まれてきたのなら、人間から作られたクローンはどうなのでしょう。必ず死を迎えるのが人間なのなら、コピーされた何千人ものジャックは人間なのでしょうか。
創造主を神とするなら、クローンの神は、彼らを複製した人工知能なのでしょうか?
人間とは何なのか、そして何をもってその人とするか、過去のSF作品でも繰り返し問われてきたテーマではありますが、また新たな切り口で見せてくれ、観終わったあとも、ずっしり問いが残る作品です。