ウォールフラワー : 映画評論・批評
2013年11月19日更新
2013年11月22日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
若手スター3人の新しい才能を引き出した青春映画
名作の誕生には、ベストなキャストが揃う時期に作られるかどうかのタイミングも大きな鍵を握っている。「ウォールフラワー」は原作者であるスティーブン・チョボスキーが小説に対して誠実な脚本が書けるようになるまで待った時間が、その幸運をもたらした作品だ。
透明人間同然の高校生活を過ごす覚悟をしていた16歳の少年チャーリーが、かけがえのない仲間や良き教師と出会い、持ち前の繊細な感性で自身や人生を見つめ、未来への扉を開いていく。少女漫画でもいけそうな設定のもと、チャーリーのワケありな事情をほのめかすだけで観客に気づかせる大人なスタイルで、青春の切なさや煌めきをさらりと浮かび上がらせて、いい歳をした大人も胸キュンさせるチョボスキーは、脚本家としても監督としても素晴らしい才能の持ち主だ。
けれども、映画とは生身の役者の肉体を通して語られるもの。主演のローガン・ラーマンのみならず、親友兄妹を演じたエズラ・ミラーとエマ・ワトソンの3人は、それぞれにヘビーな問題を抱えながらも、恋愛や将来への不安や希望といった誰もが10代の頃に抱く高校生たちの思いを観客の胸にリアルに響かせて、その才能に驚かせずにいないのだ。メジャー系エンタメ路線を歩んできたラーマンをはじめ、3人が3人ともこれまでのキャリアとはまったく別な顔を見せてくれることともあいまって、彼らのポテンシャルの高さには興奮せずにいられない。
もちろん、この若手スターたちの才能を最大限に引き出したのはチョボスキーの素晴らしい脚本と演出であることもまた事実。名作との出会いのみならず、いい役者との新たな“出会い”にもときめかせてくれるこの作品、今年のべストワンになる人も少なくないはず。
(杉谷伸子)