劇場公開日 2013年5月11日

県庁おもてなし課 : インタビュー

2013年5月7日更新
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堀北真希、胸に抱いた静かな決意、そして熱情

「自分の中で決めていました。絶対に梅子を引きずらないって」――。凛とした口調に強い意志が込められている。「梅ちゃん先生」でお茶の間の顔となった堀北真希が同作の撮影終了後、最初の作品として臨んだのが映画「県庁おもてなし課」だった。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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代表作と呼べる作品の後で、その役を引きずらないためにもあえて異なるジャンルや役どころに挑戦したり、髪形やビジュアルを一新する俳優が多いが、堀北はそのいずれの方法を取ることなくNHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」の梅子と同タイプと言える、明るく懸命に仕事に取り組むヒロイン役に挑んだ。10カ月にわたり演じた国民的ヒロイン・梅子が入り込むのを封じたのは、冒頭の言葉通り、自らの胸に抱いた静かな“決意”のみ。見事に映画、そして自らのキャリアの第2章に新たな風を吹き込んだ。

原作は、「図書館戦争」「空飛ぶ広報室」など著作が次々と映像化されている有川浩氏の人気小説。有川氏が出身地の高知県観光特使を務めることになった際の経験をもとに、観光促進を目的に高知県庁に設けられた“おもてなし課”の面々の奮闘を描く。

堀北が演じた明神多紀は契約職員としておもてなし課に配属され、年上ではあるが頼りない主人公の掛水史貴(錦戸亮)を支えるしっかり者。原作に目を通したとき、堀北は「実は多紀ではなく、どちらかというと掛水の方が感情移入できた」という。この“男性目線”を、多紀というキャラクターを作り上げていくうえで大いに参考にした。「監督からは、まず『明るい女の子』という話をされたんですが、その上で多紀のどんなところをかわいいと思うのか? どんな姿に胸キュンするのか? 掛水の目線で考えていきました。特に、しっかり者のように見えて、実は頑張ってそうしているというところ、時折見せる弱い部分はすごく大切にしましたね」

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撮影は、ほとんどが高知県内で行われた。劇中でも他県にない“観光資源”である雄大な自然が映し出されるが、堀北も撮影以外の時間を含め、その魅力に触れたという。「ふだん、地方ロケで撮影以外の自由な時間があることってあまりないんですが、今回は珍しくゆっくりできました。だから私も完全に観光気分で雑誌を片手に(笑)、四万十川や高知城、日曜市にも行きましたし、おいしいものも食べさせてもらいました」と笑顔を浮かべる。高知生まれの高知育ちという役どころだけあって、チャキチャキの土佐弁も要求されたが「実際に現地へ行って方言に触れられたのはすごく大きかったですね。現地の方がしゃべっているのを聞いてイメージしやすくなったし、役にも素直に入っていけました」と振り返る。

「観光」とともに本作が描いているのは、「仕事」の重要性。単に仕事に懸命に取り組む姿を描くのではなく、全力で打ち込める仕事があること、そして自分の力が誰かに必要とされることの幸せを伝える。短大を卒業しても正規の仕事に就けなかった多紀。“お役所仕事”と揶揄され、なかなか進まないおもてなし課のプラン。掛水と多紀が海に向かって「仕事したいぞ!」と叫ぶ姿が印象的だ。堀北自身は、中学時代に始めた女優という生業を“仕事”として意識するようになったのはここ数年のことだと語る。

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「10代の頃は特に“仕事”という意識ではなかったですね。生活の一部というのかな……。朝起きて、現場に行くのが特別なことではなくて、休みの日は学校もあったので、常に学校か現場があって。『こういう自分になりたいから頑張る』という意識もなくて、とにかく言われたことをやれるようにしようって気持ちでしたね。自分が『働いているんだ』と意識するようになったきっかけも、現場ではなくて、周りの友人が働き始めたから。みんなが仕事や将来について話すのを見て『ああ、私にとって女優が仕事なんだな』って改めて実感しましたね」

女優以外の人生について「考える時間もなかった」という堀北。要求に応え、役から役へと変身を遂げていく。冒頭の言葉にもつながるが、この意志と集中力こそが、女優・堀北真希の強さといえる。一方で単に役柄をこなすだけでなく、作品や自らの存在が人々にもたらす“熱”を、堀北自身も確かに感じ、やりがいや喜びを感じている。その意味でも「梅ちゃん先生」はひとつの転機になった。

「高知での撮影の時も『梅ちゃん!』と声を掛けていただくことが多くて、誰かに喜んでもらえることはすごく嬉しいことなんだなと改めて感じました。もちろん、女優の仕事はお芝居をすること。でも例えば、ロケを見に来てくれた子どもと偶然、言葉を交わしただけですごく喜んでもらえたり、もしかしたらその子の心にすごく大きな思い出として残してもらえるかもしれない。そういう意味で、役を演じて私が『楽しい』と思う以上に、女優という仕事にはすごく大きな力があるんだなと感じています」

クールな瞳と口調はそのままに、ほんの少しだけ頬を紅潮させた堀北は、静かにうなずいた。

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