劇場公開日 2013年9月7日

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「青山真治の神話」共喰い Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0青山真治の神話

2024年11月15日
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私はこの物語を現実的な物語として味わわなかった。リアルではなく神話の登場人物のように、それぞれのエッセンスを味わうと、もう、唸るしかない。

仁子、琴子、千種のそれぞれの多重的で自立した豊かな人間性に対して、円は精神的にも肉体的にもあまりにもみすぼらしい。

女を欲望のはけ口としてしか見ない粗暴な性癖の円は、女を殴らなければ男になれない。琴子から抜き出した鰻のようなペニスが、脆弱な男性性とみすぼらしい肉体を十全に強調していた。

そして全てを目撃している遠馬。鰻釣りの成功と、琴子の妊娠がトリガーになり、ついに父と同じ性癖が発動しかける。この辺の演出が秀逸。
遠馬に首を絞めかけられた千種は、当然遠馬を拒絶するようになる。

そんな強くて正しい千種が、父に犯されたとなれば、〝父殺し〟は遠馬の使命のはずだ。ところが、全てに落とし前を付けたのは遠馬ではなく、母の凄みだった。

そろそろ用済みになった仁子の義手は、かつての二人の性関係の象徴。片手のない自分を女として扱った男への愛と憎しみ。

仁子のお決まり文句「あの男の血を継ぐのはアンタひとりでよか」という残酷なセリフも、裏返せば、「女の悦びの中でできた私の一粒種」というふうにも思えてくる。有り得ないようだが、消え入りそうなわずかな感覚の糸を捕らまえながら語るのは田中裕子の十八番。

で、終盤。最古の血縁家族、天皇家を持ってきた。天皇には出て行く場所が無い。日本全体を覆う家族の呪縛感に気が滅入るわけだか、意外なことにラストは明るかった。

昭和の神話の主人公ならどこか新天地を目指して旅立つだろうが、平成の遠馬はこの地に居続ける。そして自らの手を縛り上げ、千種と二人で新たな快楽の世界を作り上げるのだ。あっけらかんとした楽観的なラストに新しい時代を見た。

Raspberry