「竜頭蛇尾」リアル 完全なる首長竜の日 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
竜頭蛇尾
『CURE』『回路』『叫』『トウキョウソナタ』などの
傑作を手掛けた黒沢清監督。
本作の予告編を最初に観たときは「なんだ
『インセプション』のアイデアを拝借したアイドル映画か」
くらいにしか考えていなかったが、黒沢清監督作品と
聞いてからは一変。本日まで「うおおお、早く観たい!」
と身悶えしていた訳で。
なので、あまりこういう事は言いたくないのだが……
どうしたんですか監督?
期待値を普段より上げて観たせいもあるかもだし、
彼の監督作品をすべて鑑賞している訳でもないが、
今まで観たこの監督の作品中でも特別出来が悪い気がする。
不気味な雰囲気と数々の謎が漂う序盤~中盤は
ものすごく面白いのに……。
画面の余白や映らない部分に何かが潜んでいるような
恐怖は流石だし、アンリアルなものが何の前触れもなく
日常に介入してくる時の戦慄も見事なもの。
視界の隅に突然現れる惨殺死体。
日常生活を再現する為だけの人間のまがいもの。
そうそう、2回登場する銃のシーンなんてゾクゾクした。
あなたの認識している現実なんて、
あなたの記憶だけで勝手に組み上げた曖昧なもの。
自分達が棄ててきたもの(モリオと故郷の島)を
記憶の隅に押しやり、都合の良い記憶を作り上げてきた
主人公たちに“過去”が復讐するという、
『叫』にも少し似たテーマも頭に浮かぶ。
けどねえ、“センシング”されているのが
佐藤健の方だと判明してからが問題。
昏睡状態に陥った理由には正直『しょーもな』と思った。
スランプで酔っ払ってって……。
それに、いきなりペンダントがどうとか言われても。
そんな大事なものだと物語の序盤で匂わせてくれてれば
まだ納得いったかもだけど。
なぜ佐藤健と綾瀬はるかの立場が逆転していたのか
という理由も取って付けたような感じで、
どんでん返し“ありき”みたいなイヤな人工臭を感じる。
(主演2人の演技も後半粗くなった気がする……)
最後に明かされるモリオの謎についても正直拍子抜け。
首長竜となって襲い掛かる展開にはもっと拍子抜け。
最後だけモンスターパニックみたいになった違和感は
強過ぎるし、幼少期から根強く主人公を苛み続けた
トラウマにしてはやけにアッサリ退散しちゃうし。
そもそもなぜに首長竜。
ペンダントの話の繰り返しみたいになるが、
タツノオトシゴからの連想だと
最後の最後に言われても納得しきれないし、
二人にとって大事な存在だろうそれを
記憶の封印に利用したというのも納得いかない。
物語展開に納得できないのは、幼少から一緒だったという
恋人2人の絆を描くシーンが薄すぎるのが
一番の原因じゃないかな。
伏線の数々は幼少期の記憶に基づくものばかりだもの。
それに、2人が互いを想う気持ちが全然心に迫って来ない。
うーん、原作は『このミステリーがすごい!』大賞受賞作
ってくらいだから、小説で読んだら納得できる内容
なのかねえ……。問題のどんでん返しや首長竜は
原作から変わってない要素に思えるのだけれど。
少なくとも本作を見る限りでは、
物語の鍵を握る箇所すべてが御都合主義的で
チープな展開にしか感じられない。
非常に残念でした。
〈2013.6.1鑑賞〉