劇場公開日 2012年10月6日

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「上質の会話、音楽、ファッション…至福の二時間」最終目的地 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0上質の会話、音楽、ファッション…至福の二時間

2013年1月24日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

幸せ

原作を読みながら公開を待っていた作品。真田広之(敬称略)本人の言葉か記憶が定かでないが、「現代劇を演じるのに運転免許が必須であるように、時代劇をやるなら乗馬ができて当然」という、20年以上前にふれた言葉が忘れられない。本作では、そんな彼が軽トラと馬を自在に乗り回す姿を堪能できた。
もちろん、本作の見処はそこだけではない。文学作品と相性のよい、あのアイヴォリー監督の新作、という期待にしっかり応えてくれる。特に今回は、南米ウルグアイを舞台とした現代ものである点が新鮮だった。同監督作品といえば、丈の長いドレスを纏った女性やカフスボタンが袖口で光る男性たちの恋愛模様…といった歴史物の印象が強い。閉じられた環境の中で、ときに伸びやかなきらめきを見せる登場人物たち。ところが本作では、開放的な異国に流れ着いてきた老若男女が、それぞれに孤独を抱え、所在なく過ごしている。濃く美しい緑、瑞々しい水辺、パワフルな砂ぼこり、心に染み込むような音楽。…そんな目新しい素地に、同監督らしい味わい深い会話の応酬が被る。ゆったりとしたリズムで発せられながらも、時に鋭く斬り込んでくる言葉たち。文字を目で追うのとは異なる、映画ならではの至福を存分に味わった。
また、それぞれの個性が光るファッションも忘れ難い。可憐で軽やかな死んだ作家の若き愛人・アーデン、田舎には不釣り合いなセレブ然とした妻・キャロライン、スカーフや帽子など小物遣いに洒落っけが垣間見える兄アダム。物語が進むにつれ、変化が生じていく様子にも心が沸き立つ。服装がその人となりを映す、ということを改めて感じた。
言わずもがなながら、キャスティングは絶妙。バラバラの境遇を持ちながら、どこか同じ匂いがする人々を、名優アンソニー・ホプキンス、ローラ・リニー、シャルロット・ゲンズブールらが、互いの持ち味を引き出しつつ演じている。そしてやっぱり、推しておきたいのは真田の好演。原作ではタイの若者・ピートの年齢をぐっと上げ、それでも実年齢より十歳若い役柄を颯爽と演じている。彼こそキーパーソンと原作を読んだときに感じていたので、真田に息吹を吹き込まれたピートを堪能でき、とても満足した。
本作には、優雅な午後の紅茶よりも、とろりとした琥珀色のお酒の入ったグラスがよく似合う。

cma