劇場公開日 2013年8月31日

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「ここに描かれる人間を誰一人好きになれないが、人の弱さ、狡さ等時代の空気感が香り高い文芸作品だ。」夏の終り Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ここに描かれる人間を誰一人好きになれないが、人の弱さ、狡さ等時代の空気感が香り高い文芸作品だ。

2013年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

好き嫌いは別として、本作は昭和30年代当時の2人の男の間で揺れ動く、女心をエモーショナル且つ、センセーショナルに描き出した作品として、原作の香りが好く滲み溢れた文芸作品としては、出来の良い面白い作品なのではないだろうか?
しかし、ヒロイン知子の生き様には、個人的には全く感情移入出来ない、どちらかと言うと気持ちの悪い作品だ。しかし、当時のお妾さんの生き方を描いている作品なので、そう言う意味では良く出来た作品だと評価出来る。

この映画の原作は、「あおぞら説法」や「源氏物語」現代語訳の著作で有名な瀬戸内寂聴氏が出家される前の瀬戸内晴美として作家活動のみをしていた当時、発表された彼女の初期の作品であり、今でも彼女の代表作の一つとして数えられる作品である。

この「夏の終り」は今から丁度50年も前に発表された作品であり、しかも、瀬戸内氏の自伝的な体験をから生れた小説で、言ってみれば私小説のようなこの作品に描かれている、主人公の知子の存在は、作品が発表された昭和30年代としては、きっと非常に新しい、女性の生き方を描いた作品と言うことになり、かなりセンセーショナルな小説で評判になった事だろう。
映画館は、御年配のお客様ばかりで賑わっていたのだった。
この小説が描かれた当時の世の中での評価は、私には分からない。
しかし、今日でも、こうして普段は余り映画館へは来られないだろう御年配の観客が押し寄せるのは、瀬戸内氏の人気なのだろうか?
それとも、作品の読者が今、この作品の映画化を知り、観に来たのだろうか?その真意を確かめる事は出来ないが、この作品が、年配の方々には、非常にインパクトのあった作品で今尚記憶に留まっている作品なのだろうと、私は考えるのである。

この時代、アメリカでも60年代初頭は離婚する女性は極僅かであり、それが日本となれば
更に珍しい事だ。
しかも、大会社や、政治家、或いは、有名人などの、愛人稼業をしていた、この頃のご婦人は、日陰の女として一生を貫き、あまり、自分自身で、自己の生活の自立を考え、本妻さんの処へ赴くなどの、でしゃばった行動などは、絶対に差し控えていたのがこの時代の、この世界の女性の日常意識だ。
そんな、生き方をしていたこの当時の愛人達の事をお妾さんと呼んで、自分自身はそう成らなくても、社会の中で、愛人と言う存在自体は、今よりも感大な目でもっと認知されていた時代なのだろうか?相当今とは、同じ愛人と言ってもかなり女性の生き方の意識が今とは異なっていたようだ。
ヒロイン知子は当時の女性としては、珍しいタイプの人間であり、巧く描かれていた様に思う。しかし、映画全体として、雨のシーンや、夜のシーン、曇り空の日々など、知子の心の中を映し出しているかの様な、暗いトーンの映像が続いて、観ているとこちらの気分も参ってしまうのだ。
色々と、監督が苦労を重ね描いていた、痕跡は認められるが個人的には好きになれない人間像なので、高得点は付けたくはない作品だった。

ryuu topiann