夏の終り インタビュー: 鬼才・熊切和嘉が不惑の年を前にたどり着いた“第2ターム”

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夏の終り

劇場公開日 2013年8月31日
2013年8月27日更新
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鬼才・熊切和嘉が不惑の年を前にたどり着いた“第2ターム”

意欲作を黙々と撮り続けてきた熊切和嘉が、新たな代表作「夏の終り」で果てしなき監督道の“第2ターム”へと足を踏み入れた。若き鬼才と呼ばれるようになって久しいが、本人はどこまでも謙虚で、そんな姿勢を崩そうとしない。瀬戸内寂聴氏の代表作をたおやかな質感に仕上げた熊切監督は、いま何を思っているのか。撮影現場で俳優と対峙する時と同じように、穏やかな口調で語った。(取材・文・写真/編集部)

大阪芸術大学の卒業制作「鬼畜大宴会」(1997)で極限状態の集団狂気を描き、ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式招待、伊タオルミナ国際映画祭グランプリを戴冠し、一躍注目を浴びた。あれから16年、「空の穴」「アンテナ」「青春☆金属バット」「フリージア」など精力的に新作を発表し、2010年には夭折の作家・佐藤泰志氏の小説「海炭市叙景」を映画化。疲弊しきった地方都市で生活を営む市井の人々の姿を温かい眼差(まなざ)しですくい取り、新境地を開拓した。

その後、「莫逆家族 バクギャクファミーリア」「BUNGO ささやかな欲望 人妻」を経て、尼僧で小説家の瀬戸内寂聴氏が出家前の瀬戸内晴美時代に発表した私小説が原作の「夏の終り」へとたどり着く。満島ひかりが主人公の知子を演じ、妻子ある不遇の作家・慎吾(小林薫)との関係に疲れ果て、かつて駆け落ちするほどの恋に落ちた涼太(綾野剛)との激しい愛欲にも満たされない、自らのうちに潜む女の業に苦悩する姿に迫った。

熊切監督は、原作にひかれた理由を「ヒロインの知子が面白いなと思ったんです。ここまで奇麗事が通用しないヒロインって、あんまりいないじゃないですか。新しいヒロイン像の映画になるんじゃないかと感じたんです」と説明する。そして、作品の肝となる知子役には迷うことなく満島を起用。「役の設定としては年齢がちょっと上なんですけどね。それでも、純粋に満島ひかりさんとは仕事をしてみたいと思っていましたし、一度お会いして決めました」。

ひとりの女性をめぐる男女の三角関係を描いてはいるが、今作は純然たる女性映画だ。「僕は女心がわからない」と言い切る熊切監督だが、今まで幾度となく、起用した女優が放つ一瞬の表情を逃すことなくとらえ、実に魅力的な姿としてファンのもとへ届けている。「ノン子36歳(家事手伝い)」の坂井真紀しかり、「海炭市叙景」の谷村美月南果歩しかり。今回の満島も、これまでのどの作品でも見せたことのない、狂おしいほどに憂いを帯びた絶妙な表情をたたえている。

座長・満島と撮影期間を通して向き合ったわけだが、「一筋縄ではいかない人ですよ(笑)。台本に書いてあるからと、パパッとやってくれる感じの俳優とは真逆のタイプですから。とても女性的な人だと思います」と独特の表現で、希有な才能を称賛する。具体的な演出もしなかったといい、「ある意味、女性である彼女の感性にゆだねた部分も多いんです。僕が頭でイメージしていたことよりも、彼女から生まれる仕草の方がしっくりくることが多かったように思います。満島さんは感情の人なので、形式的な指示を出すよりも、一番いい段階でカメラを回そうと、そればかりを考えていました。テストをやっている時に『あ、次くるかな』というタイミングを読むというか」と振り返る。

それにしても、完成した「夏の終り」の素晴らしい出来栄えにより全てが腑に落ちたが、当初は熊切監督と瀬戸内氏の原作という組み合わせに新鮮な驚きを禁じえなかった。当の本人は、「『莫逆家族』の後だからじゃないですか? 以前は『ノン子36歳(家事手伝い)』の最後にチェーンソーを出したり、映画自体をぶち壊したくなるような衝動があったんです。でも、そろそろそういう事をやらなくてもいいんじゃないかと。散々ああいう事をやってきたので、腰を据えて芝居を撮りたいという気持ちはありました」と笑みを浮かべる。

今後については、「男女の話が続いたので、次は男映画が撮りたいですね。たとえば戦争映画とか。生きるか死ぬかの。とにかく僕は、人間がのた打ち回る映画を撮りたいんです」と構想を語る。次回作は、浅野忠信二階堂ふみが出演する「私の男」。「まだ編集途中ですが、強烈な映画になっていますよ。二階堂さんは覚悟をもって演じてくれましたし。それから個人的には浅野さんとやれたことがすごく嬉しいです。僕らの世代にとっては特別な存在ですから」と思いを馳せた。

私の男」が公開される14年、熊切監督は不惑の年を迎える。「四十にして惑わず」というが、撮影現場で俳優たちの演技を見つめながら静かに佇む姿はどこまでも“饒舌”で、言葉の持つ意味を軽々と超越していく。女心の分からない鬼才は次に何を仕掛けてくるのか。この先に何を見据えようとしているのか。多くの映画ファン、映画記者、そして映画関係者が次の一手に注目している。

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