劇場公開日 2024年12月27日

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「【81.1】レ・ミゼラブル 映画レビュー」レ・ミゼラブル(2012) honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 【81.1】レ・ミゼラブル 映画レビュー

2025年11月8日
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トム・フーパー監督による『レ・ミゼラブル』は、ミュージカル映画というジャンルにおいて、一つの時代的な到達点を示した作品と評することができましょう。その最大の成功要因は、「ライブ・シンギング(撮影現場での生歌録音)」という大胆な手法を採用した点にあります。この挑戦は、従来のミュージカル映画が抱えていた、口パクによる感情の断絶という根本的な問題を根底から覆し、役者の生々しい感情と演技を歌声に直接乗せることを可能にしました。結果として、ジャン・バルジャンの苦悩、ジャベールの揺るぎない正義、ファンティーヌの絶望といった人間ドラマの核心が、観客の胸に深く突き刺さる感動として結実しています。しかし、この手法がもたらす過剰なまでの感情の生々しさは、観客側に感情を徐々に育む余白を奪い、時として**「感情移入の難しさ」という二律背反を生じさせています。物語の圧倒的なスケールと、個々の登場人物が背負う運命の悲劇性が、技術的な革新と結びつくことで、極めて高い芸術的完成度に達していると言えますが、その完成度は「圧倒的な熱演」と「観客との心理的な距離感」が同居する複雑な相貌**を呈しています。
監督・演出・編集
トム・フーパー監督の演出手腕は、時に過剰とも評されるものの、本作のスペクタクルと感情描写の両面で光を放っています。彼のトレードマークであるクローズアップの多用は、特にアン・ハサウェイ演じるファンティーヌの「I Dreamed a Dream」といった感情の極限にあるシーンで、役者の微細な表情の動き、涙、息遣いを捉え、観客に強烈な没入感を強います。しかし、このクローズアップの連続は、観客に**「視覚的圧力」として作用し、広大なフランスの情景という世界観と人物を切り離し、観客が感情を自発的に発露させる余地を奪っています。 また、舞台的なダイナミズムを維持しつつ、広大なフランスの情景や苛烈な革命の戦場を映像化する技術は見事です。しかし、中盤の群像劇への移行、すなわち革命学生のパートにおいて、演出は構造的な課題を乗り越えられず、物語の推進力を著しく鈍化させたという批判は免れません。 前半の緊迫した個人ドラマから、若者たちのロマンスや政治的な議論へと焦点が拡散する際、フーパー監督はその緩みを埋める映画的な緊密さを提供できなかった点は、演出技量における明確な失敗です。編集は長大な原作を約2時間半に凝縮する難題に挑みましたが、このリズムのムラこそが、本作の評価を分ける主要因であり、大胆かつ情熱的な演出が、その構成力の脆さ**を露呈させたと言えるでしょう。
キャスティング・役者の演技
本作のキャスティングは、歌唱力と演技力を兼ね備えた実力派が揃い、その圧倒的な存在感で作品全体を牽引しています。
ヒュー・ジャックマン(ジャン・バルジャン役)
本作の成功の最大の立役者であり、その演技はまさに圧巻の一言に尽きます。彼は、たった一片のパンのために19年間投獄された囚人が、神の慈悲に触れて魂を浄化し、懸命に生きる聖人へと変貌していく半生を、肉体的、精神的な深みをもって体現しました。特に、冒頭の屈強な囚人としての姿から、ファンティーヌの死に際して決意を新たにする場面、そして終盤の衰弱した老境に至るまで、時を超えたバルジャンの心の葛藤と成長を、説得力をもって演じきっています。ライブ・シンギングによる「Bring Him Home」や、ファンティーヌとの別れのシーンでの歌声は、技術的な安定性だけでなく、感情の迸り、魂の叫びを伴っており、彼のキャリアにおける頂点の一つであると断言できます。この複雑で多面的な役柄に、これほどの深みと人間性を与えたジャックマンの功績は計り知れません。
ラッセル・クロウ(ジャベール役)
ジャン・バルジャンを追い続ける警官ジャベールを演じたラッセル・クロウは、その生真面目さ、法と秩序への絶対的な信仰心を体現しました。彼の歌唱力については賛否両論ありましたが、その重厚なバリトン声は、ジャベールの硬質で揺るぎない信念を表現する上で、特有の迫力と説得力を与えています。特に、バルジャンに対する執着が崩壊し、自らの信念との間で葛藤するクライマックスのシーンは、感情の起伏を最小限に抑えながらも、内面から湧き出る絶望を強く感じさせ、観客に彼の悲劇的な運命を深く印象づけました。
アン・ハサウェイ(ファンティーヌ役)
ファンティーヌの悲劇的な運命を演じたアン・ハサウェイは、本作で助演女優賞を受賞したことからも分かる通り、短時間ながら観客の心に最も強烈な印象を残しました。娘コゼットのため、すべてを失っていく女性の絶望と献身を、鬼気迫る表情と、痛ましくも美しい歌声で描き出しています。特に、鏡を見つめながら自らの髪を切り、歯を売るシーン、そして「I Dreamed a Dream」での感情剥き出しのパフォーマンスは、彼女が単なる美しさだけでなく、真の演技力を備えた女優であることを証明しました。彼女のパフォーマンスは、この映画の感情的な核となっています。
アマンダ・セイフライド(コゼット役)
アマンダ・セイフライドが演じたコゼットは、バルジャンに守られ育った清純な女性の象徴です。彼女の透き通るようなソプラノの歌声は、キャラクターの無垢な美しさを完璧に表現しており、マリウスとのロマンスの純粋さを際立たせています。演技面では、幼少期の過酷な運命から一転、愛を知る女性へと成長する過程を、落ち着いた抑制の効いた表現で示し、バルジャンの人生の希望としての役割を静かに果たしており、物語の癒やしと光の部分を担っています。
エディ・レッドメイン(マリウス役)
革命家学生マリウスを演じたエディ・レッドメインは、理想に燃える若者としての情熱と、コゼットへの愛に苦悩する繊細な感情を見事に両立させました。バリケードで友人たちを失った後の独唱曲「Empty Chairs at Empty Tables」における彼のパフォーマンスは、悲嘆と喪失感を伴った震える歌声が、戦争の無情さと個人的な絶望を深く表現しており、助演ながら非常に記憶に残る名シーンとして評価されています。
脚本・ストーリー
脚本は、ウィリアム・ニコルソンらによって、原作とミュージカルの骨子を忠実に守りながら、映画的なテンポと構成に再構築されています。長大な物語を無理なく一つの流れにまとめている点は評価できますが、全編歌唱であるため、台詞による補足説明が最小限に抑えられており、原作や舞台の知識がない観客にとっては、登場人物の背景や動機がやや分かりにくい場面が存在するかもしれません。しかし、バルジャンとジャベールの追跡劇という核心的な対立軸、そしてマリウスとコゼットのロマンス、若者たちの革命への情熱という複数の要素が交錯する構成は、壮大な叙事詩としての魅力を損なうことなく維持しています。特に、クライマックスにおけるバルジャンの贖罪と救済のテーマは、力強く観客に訴えかけます。
映像・美術衣装
本作の映像と美術衣装は、19世紀初頭のフランス、特にパリの貧困と絢爛さが混在する時代背景を見事に描き出しています。リアリズムを追求した泥と貧困にまみれた描写、対照的に豪奢な貴族の屋敷や、テナルディエ夫妻の酒場の猥雑な美術は、物語の背景となる社会の格差と腐敗を視覚的に強調しています。美術監督のデボラ・ヘクトとセット装飾のリー・サンドールは、細部にまでこだわり抜いたセットデザインで、観客を文字通り当時のパリへと引き込みます。また、衣装は時代考証に基づきながらも、キャラクターの社会的地位や内面を反映するようデザインされており、特にファンティーヌが身を落としていく過程の衣装の変化は、彼女の悲劇を際立たせています。
音楽
クロード=ミシェル・シェーンベルクによる楽曲群は、もはや古典的な名作と呼ぶにふさわしいものです。映画版では、ライブ・シンギングという手法により、そのメロディと歌詞が持つ感情の深みが最大限に引き出されました。「One Day More」における各登場人物の運命が交錯するダイナミズム、「Stars」でのジャベールの揺るぎない決意、そして「Do You Hear the People Sing?」の革命的な高揚感など、名曲の数々は作品の魂となっています。また、映画のために書き下ろされた新曲「Suddenly」は、ジャン・バルジャンがコゼットを連れて逃避行する場面で、彼の父性的な愛を静かに表現しており、物語の感情的な転換点に貢献しています。本作は、第85回アカデミー賞において、助演女優賞(アン・ハサウェイ)、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、録音賞の3部門で受賞を果たしました。主要な映画祭においても、ゴールデングローブ賞で作品賞(コメディ・ミュージカル部門)、主演男優賞(ヒュー・ジャックマン)、助演女優賞(アン・ハサウェイ)の3冠を獲得するなど、批評家と観客の両方から高く評価された事実が、その完成度の高さを証明しています。

作品[Les Misérables]
主演
評価対象: ヒュー・ジャックマン
適用評価点: A9
助演
評価対象: ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン
適用評価点: A9
脚本・ストーリー
評価対象: ウィリアム・ニコルソン
適用評価点: B+7.5
撮影・映像
評価対象: ダニー・コーエン
適用評価点: A9
美術・衣装
評価対象: イヴ・スチュワート / パコ・デルガド
適用評価点: A9
音楽
評価対象: クロード=ミシェル・シェーンベルク
適用評価点: A9
編集(減点)
評価対象: メラニー・オリバー
適用評価点: -2.0
監督(最終評価)
評価対象: トム・フーパー
総合スコア:[ 81.10 ]

honey
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