「灰色で皺だらけの善悪の境界線」脳男 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
灰色で皺だらけの善悪の境界線
爆破シーンや挿入歌が強烈な予告編や、同監督の『犯人に告ぐ』が好きだったので楽しみにしていた映画。
なんだか江戸川乱歩の小説みたいなタイトルだなあと思っていたら、
実際に江戸川乱歩賞を受賞した小説の映画化だそうで。
結論。重いが面白い!
グロテスクなシーンも多いので注意だが、混沌として、
情け容赦の無い超ヘビー級バイオレントサスペンス。
爆破シーンもスゲエ。
まずは役者陣について。
二階堂ふみ、どうした。非常にお狂いになっておられますが大丈夫ですか色々と。
小さな体で強烈な存在感。人の理解を拒む邪悪で虚無的で
荒唐無稽なキャラだが、本作の中では浮かずに現実の存在に見えた。
松雪泰子も頑張っている。ひたすら耐える展開ばかりなので
なんだか可哀想になるが、芯の強さも感じさせる。
染谷将太も短い出番ながら重要な役所。あの曖昧な表情がいい。
石橋蓮司、夏八木勲らベテランも相変わらず強烈。
江口洋介は……も少し体温を下げて演じても良かった気が(笑)。
そして主演、生田斗真。
均整の取れた顔立ちと肉体、マシンのように統制された所作。
白磁の人形のように冷たく不気味な印象を残すだけに、
ほんの僅かに『人間』を感じさせる、微妙な表情の変化が活きてくる
(個人的にはもう少しささやかな変化でも良かったと思う)。
彼が最後の最後に見せた表情には「あ、」と声を上げそうになってしまった。
敵も味方も傍観者も情け容赦なく殺され、何を信じて良いかも分からなくなる混沌の中で、
あの表情だけが唯一の救いだった。
難を言うなら、
『似通った境遇の怪物2人の対決』という図式をもう少し強調して欲しかったかな。
つまり、爆破犯・緑川の背景が深く描かれない為、
鈴木一郎と対になる存在(劇中の言葉を借りるなら“蛇の双頭”)としての
存在感が不足してしまったと思う。演技・演出が良いだけに、惜しい。
また、『鈴木一郎の解明』というサスペンスに比重を置いた分、
『連続爆破犯の追跡』というサスペンスが弱まってしまった点も残念か。
だが、大満足の4.0判定!
人に人を裁く事/更生させる事が出来るのか?
人の善悪を他者が見抜く事など、果たして可能なのか?
善悪の境界という、灰色で皺だらけの曖昧な領域。
誰も信じられなくなりそうな無慈悲で混沌とした世の中。
だがそれでも、彼のようにどこかに暖かい心は残っていると思いたいもんです。
<2013/2/9鑑賞>