劇場公開日 2021年4月16日

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「平成ガメラシリーズのクオリティを高く保ちながら締めくくり、現代の日本の特撮映画の石礎になった超重要作品です」ガメラ3 邪神(イリス)覚醒 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0平成ガメラシリーズのクオリティを高く保ちながら締めくくり、現代の日本の特撮映画の石礎になった超重要作品です

2022年6月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

1999年3月6日公開
夜の渋谷でのガメラとギャオスの戦いのもの凄さは日本特撮映画史上屈指の名シーンです
26年も昔の作品なのにこれを超えるものはいくつもありません
最高峰の一つに挙げられるものでしょう

そして終盤の京都駅のガラス天井のコンコースの大空間でのイリスとガメラの戦いも度肝を抜く素晴らしさです
これもまた渋谷のシーンと並ぶものです
火の海になる京都駅南側の市街、炎の影に見える東寺の五重塔の美しさも忘れられないもので日本の特撮映画の至宝のシーンです

確かに、現代のCGやデジタル合成の技術は、本作の時代から遥かに進歩しています

平成ガメラの第1作ではミニチュアワークと従来の光学合成が主体でした第2作ではそれにCGとデジタル合成が部分的に取り入れられて効果を挙げていました
そして本作では、CGとデジタル合成が主体で製作されており基本的に現代の怪獣映画とそう変わらないものになっています

それでも今に至るまで、本作のこれを超える迫力ある破壊シーンは数える程しかないのです

目の高さでの低い巧みな構図、場面にあった色調と照明の臨場感、生活感のあるミニチュアワーク、マットペイントの効果的な使用、本編との一体的な演出力がこの効果を生み出しているのです

2022年の「コングvsゴジラ」に欠けているのはそれです
いくら予算規模が大きく、CGやデジタル合成の技術が高くとも派手な映像にはなっても臨場感と説得力は別物であるということです

「シン・ゴジラ」、「シン・ウルトラマン」の原形はここにあるのです
平成ガメラシリーズが無ければ、この2作品は存在しえなかったはずです

ラストシーン満身創痍のガメラに世界中からギャオスが殺到しようとしているところで本作は終わります

いくら自衛隊が敵をガメラからギャオスに変更したところでどうにもならないのは明らかです

2006年の「小さき勇者たち」の冒頭のように多数のギャオスを引きつけてガメラは自爆するかも知れません
しかし、それでも足らない程多数のギャオスが飛行していたのです

これからどうなるのか?
ガメラはギャオスに倒され人類は滅亡に向かうのか?
それは語られません

特典映像で金子監督は、これ以上は予算の問題で作ることは出来なかったからこう終わるしかなかったと述べられていました

ガメラもギャオスも地球環境が悪化したときに出現するように超古代文明に造られた生物兵器です

ちょうど平成ガメラシリーズと同じ時期に東宝は平成ゴジラシリーズを終了してモスラの新シリーズを始めていました
モスラもまた地球環境を守る存在として位置づけられた怪獣です

怪獣は過去から、何かの巨大な水面下の恐怖の暗喩として映画にされてきました
つまり平成ガメラも平成ゴジラも、地球環境の悪化という水面下の恐怖の形を具象化した存在なのです

ソ連崩壊と冷戦の終結による、核戦争の恐怖に代わる巨大な恐怖の形
それが地球環境の悪化だったわけです

確かに2022年、地球環境の悪化は今やはっきりと目に見える形になってきました

シン・ゴジラは原子力災害と大震災の被害の巨大さの恐怖、それに立ち向かう政府の無能さの恐怖、そして若干の希望を描いていました

しかし、「シン・ウルトラマン」は忍び寄る侵略の恐怖を具象化していました

そしてウクライナ戦争
もはや地球環境の悪化どころではなくなってしまい、戦争がいつ核戦争にエスカレーションしてしまうのではないか?
そこまで行かなくともエネルギー危機や食糧危機が起きるのではないか?
物価高はすでに私達の懐に直撃弾を浴びせてきています

いやそれどころか、東アジアでも戦争が起きるのではないか?
日本がウクライナのような戦場と化してしまうのではないのか?

もしかしたら何年か後は独裁国家に日本は占領されてしまうのかもしれない
自分たちの子供たちはこれから何世代も虐げられて苦しみのなかで生きていくことになるかも知れない

そんな恐怖を感じて日々暮らしているのが2022年の夏なのです

時代を反映していたからこそ観客の意識の下に潜んでいる恐怖と共鳴して、両作とも大ヒットしたのです

では、もし令和のガメラシリーズが作られるとしたなら、当然そのような恐怖を背景にして登場してくるはずです

劇中に登場する南明日香村は実在しません
平坦地の多い明日香村中心部より南の山間部に分け行ったところという意味合いでそうしたのでしょう

陸上自衛隊は大阪府和泉市の信太山駐屯地から出動していますので、大阪府と奈良県の境の峠をこえて吉野川に抜けて大和上市の北側山間部に展開したようです
ここまで来るのに1時間半程度でしょう

ガメラとイリスの関係を陰陽五行説で説明しています
高松塚古墳の壁画の北の玄武と南の朱雀からの由来が語られます
玄武は亀、朱雀は鳳凰つまり火の鳥です

詳しく調べてみると、こういうことだそうです

北が黒の玄武で水、東は青の青龍で木、西は白の白虎で金、南が赤の朱雀で火、中央は黄の皇帝で土をそれぞれ表しています

平成ガメラは南洋から出現しましたが、昭和の最初のガメラは北極から出現したことを思いだして下さい

とすると令和にガメラシリーズが復活するならば、敵の怪獣は西から出現する白虎か、東から出現する青龍になるはずです

青を基調とする国は米国
白を基調とするのは朝鮮
赤は中国、黒はロシア
そのような妄想が渦巻きました

いずれにせよ、本作において超古代文明と神話時代の日本との関係性を物語の中心に置こうとしたコンセプトは分かるし、狙いも良いと思いますが、如何せん未消化です
不要な登場人物が何人かいたりします
それだけが残念な欠点と思います

しかし、昭和、平成、ミレニアム全てのゴジラシリーズより数倍も数十倍も出来の良い脚本です
贅沢を言えばきりがありません

平成ガメラシリーズのクオリティを高く保ちながら締めくくり、現代の日本の特撮映画の石礎になった超重要作品です

蛇足
角川映画のロゴは朱雀だと思われます
イリスの触手のようなものが波打つムービーロゴは正にイリスを連想させるのが面白い所です
このロゴはいつ頃から使われるようになったもののでしょうか?

でも東宝の1998年の「モスラ2 海底の大決戦」の敵怪獣は青龍そのものでした

あれはもしかしたら本作由来だったのかも知れません
考え過ぎですね

あき240
トミーさんのコメント
2024年6月28日

自分は青龍である古代怪獣(バルゴンイメージ)を打倒したゴジラが青龍に成り代わり、ガメラ対ゴジラに繋がると妄想してました。じゃあ白虎は? キングコング? キングシーサーの訳ないか・・。

トミー
CBさんのコメント
2022年7月14日

> 夜の渋谷でのガメラとギャオスの戦いのもの凄さ
> 京都駅のガラス天井のコンコースの大空間でのイリスとガメラの戦いも度肝を抜く素晴らしさ
いやあ、全く同感です。凄いですよね。自分には特に京都駅のガラス。
あと平成ガメラシリーズが凄いなと思う点の一つに「ガメラの痛さが伝わってくる映像」という面がありました。愛する怪獣映画は数あれど、痛さに共感することは珍しかつたなあ。

> 2022年の「コングvsゴジラ」に欠けているのはそれです
いくら予算規模が大きく、CGやデジタル合成の技術が高くとも派手な映像にはなっても臨場感と説得力は別物
ううむ。なるほど。自分は「コングvsゴジラ」を絶賛しましたが、あき240さんの言うことには全面的に納得です。たしかに!

> ガメラとイリスの関係を陰陽五行説で説明
本作での "陰陽五行説の東西南北" は、うまく機能して不可思議かつなんだか納得感のある、いわゆる "いい感じ" でしたね。俺も堪能しました。

CB