明日は日本晴れ
劇場公開日:1948年12月8日
解説
さきに「蜂の巣の子供たち」を製作した清水宏が、松竹における「狐と狸とおかめ」を一時中止してかかった戦後の第二作である。この映画は町と温泉町をつなぐバスの中の物語で、旧作「有難うさん」で実験ずみのオールロケーション映画、カメラは「こころ月の如く」、「夜の女たち」の杉山公平担当、京都近郊の山峡が舞台にえらばれる。キャストは「肉体の門(1948)」「夜のプラットホーム」の水島道太郎と「花ある雑草」以来八年振りの顔合わせの三谷幸子、同じく旧作「恋愛修学旅行」であんまを演じた日守新一このほか、久方ぶりの国友和歌子、老将軍にふんする「桜御殿」の荒木忍のほか多数の素人俳優が配役に加わっているのが特色である。オリジナルタイトルは「秋」。
1948年製作/65分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1948年12月8日
ストーリー
そう涼の秋、今日も山峡の温泉町からボロボロの乗合バスが町の駅へ七曲がりの峠をあえいで登っている。イキのいいヤミ屋、重税を嘆く山主、とりあげに急ぐ産婆、カンの良いあん摩の福市など。そのバックミラーにうつる人生をよそに運転手木野清次は黙々とハンドルを動かしている。車掌の柳田サチだけは清次の傍に立っている時間がたのしい。バックミラーにふと映った都会のにおいを持った女のまなざしがサチの心を不安にした。「噂によく出るワカさんじゃない?」清次の表情は動かない。乗客たちが案じた通りこのボロバスは見事に故障してしまった。乗客達はてんでばらばら自分の御都合を算じ始める。車体の下にもぐりこんだ清次は、あせっている人々も一向に眼中なく、のんびりと「修理の見込みは立ちません」という。一人二人客は歩き出した。みんなじりじりしている。中にはこすい占師も、人生をロハで渡る浮浪児もいた。ただ一人都会から来たワカだけが六年振りの故郷のにおいにじっと動かない。救援バスを待つよりほか術はないという清次の宣言に、運賃払い戻し悪くないと歩きだした占師が、算用をかえて帰ると、ワカはうるさそうに車外に出た。泣いている娘がある。戦争で孤児になりこの近在に引取られた娘だが、やはり東京が恋しく家出して行く途中だ。福市の人を喰った話術をもってしても娘はだまっている。そして娘が淋しく歩き出すと、ワカは黙って脱いだセーターを娘にやり、じっとその姿を見送っている。「ワカさんじゃないか」と福市の呼びかける声も思い出を誘って清次との悲しい夢にみちる故郷の山河をなつかしがった。行きちがいのバスが来てあきらめた連中はそのバスでもう一度ふり出しに引返し、折よく来合わせたトラックに乗ってみんな去った。夕暮の陽が峠にふりそそぎ取残された清次、サチ、ワカ、福市のめいめいの思い出は妙にうらさびしい。久し振りにあう男女、そこにはどうにもならない別々の人生があった。それをくめないサチには、語りあう清次とワカの姿が何かさびしさをもたらす。救援バスが来た。乗り移ったワカと福市、清次は自分の運転する車に日毎つみこまれる行きずりの人生にふと堪え難いものを感じて歩き始めた。泣いているサチの姿も、遠くなる車窓のワカのそそがれたひとみも感じなかったように峠には夜が来た。