「子供の頃マジで怖かった記憶」映画ドラえもん のび太とアニマル惑星 森林熊さんの映画レビュー(感想・評価)
子供の頃マジで怖かった記憶
今作は自然環境保護に対してスポットが当てられている。今回の舞台となるアニマル惑星はまさにユートピアという感じで、排ガスが出ない地磁気で走るタクシー、汚水処理も完璧、水と空気と光を原料に食物を合成し、高効率の太陽光発電があるなど、22世紀の地球より環境設備が凄いということで、のどかな見た目に反して非常に科学技術が進歩している。
また時代を反映した感じで裏山をゴルフ場にしようという計画が持ち上がり、のび太のママが町内会を挙げて反対するというシーンもある。当時はバブル崩壊の直前であり、こんな計画があってもおかしくはないが、さすがにあんな山を平地にするのはちょっと現実感が無い上に、一体何コース作れるというのだろうか。まだゴルフ練習場を作るという方が納得出来る。
寝ぼけまなこののび太がピンクのもやを潜った先には動物が二足歩行する世界だった。一度はドラえもんにすら信じて貰えなかったが、翌晩トイレ帰りにピンクのもやが現れ、今度はしっかり着替えをしてもやを進むことに。暴風雨で飛ばされそうになったのび太だったが、間一髪ドラえもんが救出に現れる。信じなかったことを謝罪するドラえもん。その先にある川で犬の少年チッポを助ける。のび太の大魔境にも二足歩行の犬チッポが登場するのだが、チッポという名前が好きなのだろうか。声は国民的声優となった田中真弓。クリリンやルフィというより、チッポはパズーの声が近い感じがする。
しずかちゃんを伴って再度訪れたアニマル惑星には人っ子一人おらず、3人は不安になる。しかし日付が変わると同時に人々が一気に現れる。正月はこういうしきたりらしく、のび太達はチッポから伝承について教えて貰う。元々は動物たちは月でニムゲという悪魔に虐げられていたが、それを神様が星の船と光の階段を使って、この地に連れて来てくれたというものだった。チッポはこの二つが禁断の森にあるという古文書を持っており、のび太達と探そうと考える。この神様は実は鉄人兵団の時と同じで科学者なのだが、勝手に進化させるのはさすがにどうなんだ?
そして実はスネ夫とジャイアンものび太達がもやの中に入るところを目撃しており、後を付いて来ていた。しかし、タケコプターを持っていなかったので森の中を彷徨う羽目になり、引き返そうと思ったところ廃墟に繋がってしまう。再度森の中に戻って来たスネ夫とジャイアンは不気味なマスクを被った人がもやの中から出て来るのを目撃し、森の中を疾走し今度は川へと落ちてしまう。いきなり廃墟が現れ、謎の男がもやの中から出て来るということで、正直子供の頃はこのシーンが非常に怖かった。
ドラえもん達と再会したスネ夫とジャイアンは安心感から2日間寝込んでしまう。さすがに可哀想になるくらいの疲労困憊具合だ。地球に帰る事にした一行は、もやが出なくなり始めていることに気付く。もやの正体はどこでもドアの気体版とも言えるどこでもガスと同じような物だった。しかし、欠陥が多過ぎたことで発売中止になってしまったといういわくつきの代物。しずかちゃんはこれが光の階段の正体だと看破する。もやが消える直前、なんとか地球に戻った一行は二度とアニマル惑星に行けないと落胆する。
ある日、チッポの声が聞こえたのび太は驚く。以前チッポにも渡していた糸なし電話から声が聞こえており、チッポに危機が迫っていることを知った一行はアニマル惑星へと向かうことを決意する。のび太が持ち帰ったアニマル惑星の花を宇宙救命ボートにセットする事で、宇宙を飛んで行くという至極真っ当な方法で再度アニマル惑星へと到着する。
到着したアニマル惑星はニムゲによって襲撃されており、チッポも瓦礫の下に閉じ込められているという状態だった。ここまでゲストキャラがピンチな場面も珍しい。また、従妹のロミがニムゲによって攫われたことが判明し、救出に向かうことにする。だが、ドラえもんの静止を聞かずに宇宙救命ボートを起動した結果、セットされていたアニマル惑星へと逆戻りしてしまい、宇宙救命ボートは川底へ沈んでしまう。いや、さすがに飛ばないかそのまま着地するかしろよと思うが、ドラえもんのひみつ道具なのでそこはご愛嬌。
禁断の森に避難していた動物たちと合流し、おそらく残っていると考えられる星の船を探すことにする一行。普段運の無い人間が3時間ツキまくるツキの月を使ってのび太は星の船を発掘する。しかしのび太は運が悪いこともあるが、正直ドラえもんが傍にいるというだけで滅茶苦茶運がいいし、ピー助の卵をすぐに掘り当てるなど、映画版は特に運がいいのだが。
うっかり落ちて起動した星の船は垂直離陸し、月へと向かって直進する。月は地獄星とも言われデストピアであり、環境破壊や核戦争によって汚染されてしまっていたのだ。それが長い時を経てようやくマシになって来たという世界である。一歩間違えれば地球もそうなってもおかしくない。ツキまくっているのび太は見つかってしまうものの、勝手に相手が失神したことで入れ替わることに成功する。
しかし、スパイが紛れているということで一人一人マスクを取ることになってしまう。ところがここでもツキが発動し、連邦警察のスパイが先に見つかる。しかも連れて行った独房の先に探し人であるロミが囚われており、スパイが隙を突いて見張りを気絶させ、のび太はロミと共に地獄星から脱出することに成功した。ちなみにこのシーンも子供の頃は怖かった。何しろ敵の真っ只中に一人で潜入するのだから。
無事に帰還したのも束の間、ニムゲの襲撃に備えて、動物たちはドラえもんの道具を量産して戦う準備をする。翌朝ニムゲが再び急襲するが、ドラえもんの道具によって応戦する。だが、多数の援軍が来てもうダメだと思われたその時、援軍と思われた船は先に襲って来ていた船を攻撃し始めた。実はスパイというのは連邦警察の一員であり、アニマル惑星へ侵攻して来たのは秘密結社コックローチ団という一部の連中だったと判明する。
最後にコックローチ団の総長が連行される前にマスクを取って貰い、空気を吸うシーンがある。「素晴らしい空気だ」とそれだけなのだが、なんてことのない空気が欲しかったのだとよく分かるシーンだ。子供の頃はなんとも思わなかったであろうシーンが、非常に胸を打つ。腐ったような雨が降り、濁った空気が漂うためマスクが必須、防護服も着用していないと長時間外にいるのは危険だと分かるし、彼らは子孫であり直接惑星を滅茶苦茶にした訳では無いのだ。まぁだからと言って、他星を侵略していい訳は無いのだが。
実際話が終わってみると地獄星に住むニムゲ達は簡単に星間飛行することが出来ると分かるし、コックローチ団もどこでもガスでアニマル惑星へと来る前は侵攻など考えていなかったことが分かる。ただすぐそこにそんな素晴らしい惑星があり、何故今まで行かなかったんだ?とか思ってしまうが、そこはご都合主義である。連邦警察もアニマル惑星を侵略しようとも思っていないし、現在地獄星に住んでいる大多数のニムゲ達は平和主義なことが伺える。だが、子供心に実は敵は人間だったというインパクトは強く、マスクや防護服はスター・ウォーズのストームトルーパーを彷彿とさせる不気味さがあった。