野良猫(1958)
劇場公開日:1958年11月18日
解説
朝日放送の“ABC劇場”で放送された茂木草介原作『飛田附近』の映画化。阿呆と呼ばれながらも気ままに人生を通す呑気な男と、男から踏んだりけったりされながらも生きて来た女のめぐり合った二十四時間を、大阪の下町を舞台に描いた風俗喜劇。木村恵吾・藤本義一・倉田順介が共同で脚色、「浮世風呂」の木村恵吾が監督、「底抜け忍術合戦」の岡崎宏三が撮影した。「みみずく説法」の森繁久彌・乙羽信子が主演する。パースペクタ立体音響。
1958年製作/92分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1958年11月18日
ストーリー
大阪天王寺の西、釜ケ崎の煤煙と臭気に明けくれる一角に村上兵太郎は住んでいた。お人好しで、それだけに無気力、元は飛田の妓楼の主人だったが落ちぶれた今は、二間しかない部屋を連れ込み宿にして細々の暮し、女房は愛想をつかし三つになる子供と一緒に近所の偽学生と逃げていない。する事もない、ある一日、兵太郎は、昔の抱えっ妓で、男にそそのかされ借金を踏倒して逃げた大原君江に会った。話を聞くと、あれから河内で男と世帯をもったものの、嫉妬深くて昔の客のことを聞いては撲る蹴るの乱暴。そこで今朝、家出してきたというのだが、頼ってきた昔の友達・春子の夫に怪しげな振舞いをされたり、途中で寄った大衆食堂で見知らぬ男に言い寄られ体を売ってしまう羽目になったことなど、兵太郎も君江の運命に同情して、釜ケ崎の家へ誘った。根なし草のような二人--「同じ阿呆同士なら結婚しよう」と、ここに時ならぬ三三九度の結婚式が始った。ところが、この奇妙な結婚式を見た隣家の倉本は、兵太郎を裏へ呼んで、君江を売ってしまえとそそのかした。前借二万円になると聞いた兵太郎はふと胸算用、それでは売ってしまおうかと考えた。が、そこはお人好しの兵太郎。三三九度の盃半ばに、それをつい口すべらしてしまった。怒った君江は夜の街に飛出し追いついた兵太郎に「あんたは人間の屑だ」とぶちまけた。「私は死にたい」--君江の言葉に兵太郎も、この世に未練のない自分の体、一緒に死のうと決めた。二人は、安住の地に行けるような錯覚を起したのである。兵太郎と君江は鉄道線路に枕を並べた。近づく汽車の音。と、汽車は別の線路を走り去った。唖然として立上った兵太郎。その時、彼は苦しんでいる君江を見つけた。君江の口から妊娠していると聞かされ、兵太郎はびっくりした。白い夜明けの土堤の上で、兵太郎は、ふと逃げた妻子を思い起した。「子供に罪はない」--こうして再び生きる決心をした二人に、もはや人生の寂しさはなかった。