約束(1972)

劇場公開日:

解説

看守付きで仮出所した女囚と、刑事に追われる強盗犯が列車の中で偶然に隣り合わせになり恋に陥る。一一明日がない男と女の悲しい別離を描く。脚本は「旅路 おふくろさんより」の石森史郎。監督も同作の斎藤耕一。撮影は坂本典隆がそれぞれ担当。

1972年製作/88分/日本
原題または英題:Le Rendez-Vous
配給:松竹
劇場公開日:1972年3月29日

ストーリー

「頂くわ、お弁当」「口をきいたな、あんた」二人が初めて言葉を交わしたのは、そんなやりとりだった。日本海を左手に北上する長い旅の列車で、若い男が前の座席の年上の女にあれこれ喋りかけたあげく、口を開かせたのは、男が駅弁を進めたのがきっかけだった。図々しいが奇妙に憎めぬところもあるこの男は、列車が終着駅に着くと、女を付け回した。その間、問わず語りに、自分も私生児だったと淋しい生い立ちを話したりした。無表情でどこか翳のある女も得体が知れなかった。街外れで墓参、村井晋吉という男を訪ねて素っ気無く追い帰されると、がっかりした様子で、ついてきた男に、松宮螢子と名乗り、三十一歳になると、初めて身の上らしきものを語った。二人の間にほのかな親近感が生まれた。男は螢子に、明日、旅館で会ってくれと強引に約束させた。しかし、その時刻に男は現われなかった。待ちぼうけをくわされた螢子が、ゆきずりの男の言葉を信じた自分の愚かさを恥じ、上り列車に乗った時、息をはずませて男が飛び乗ってきた。男の真剣さに螢子は初めて赤裸々な自分を告白した。受刑囚で、母の墓参に仮出所させて貰った身であり、明朝八時までに刑務所へ帰らねばならないこと。終始、螢子つきそっている女は看視官島本房江だということ。そして、村井晋吉は同じ女囚の夫で、頼まれて手紙を届けたが、女のできた晋吉の余りの冷たさに改めて男に対する不信感を募らせたことなどを事仰った。隣り合わせに座った二人は房江の目を盗んで、男のコートの下で手を握り合ったりした。夜になり、螢子は男のコートの裾に点々と着いた血痕らしいものを見つけいまわしい過去を思い出していた。夫を刺し殺した時の感触、公判、刑務所の味気のない生活……。車中の長い夜、二人は異常に感情を高ぶらせた。殊に螢子は前日、晋吉と女の情事を垣間見たこともあって、その顔は上気した。そんな折、列車が土砂崩れにあって停車した。慌てる房江を尻目に、二人は示し合わせたように線路脇に飛びおり、言葉もなく抱き合った。螢子の閉されていた欲情がせきを切り、男も激情に溺れた。やがて列車は動き始め、夜明けには刑務所のある街に着いた。別れの時がやってきたのだ。男は別れ際中原朗と名のった。--それから二年後、刑期を終えた螢子は約束した公園で中原を待っていた。だが中原は、二年前、刑務所前で螢子と別れた瞬間、尾行していた刑事の手で、傷害現金強奪犯として逮捕されていたのだ。そんな事情を知らない螢子は「きっとあの人は来てくれる」と信じて待ち続けるのだった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

5.0女の本音が詰まっている映画だと思います

2021年12月16日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

これは本物の傑作です!
日本映画オールタイムベストの一角を占めて当然の作品です

岸惠子40歳
彼女の役蛍子は35歳だと劇中で分かります
なのに若く見せようとせずに、逆に45歳くらいに見せようと役作りしています
化粧気もなく、皺をワザと目立たせています
髪もおしゃれさは微塵もありません
全て監督の指示によるものと思います

萩原健一22歳
「太陽に吠えろ」に出演して役者としてもブレイクするのは本作の半年後の事です
彼の役の年齢は語られません
しかし彼の実年齢か、もしかしたらそれより若い歳で設定されているようです
子供ぽい表情を見せるように演出されています

冒頭はどこかの冬の海辺の公園
子供たちが遊んでいます
どうも放課後の学校帰りの時間帯のようです
冬の夕暮れは早く薄暗くなるのはもうすぐ
夏は海の家になると思しき小屋のベンチに主人公の蛍子は寒そうにうつむいて座っています

彼女の顔のアップが画面の左半分を占め、コバルトブルーの小屋の壁が右半分
その右半分の下部に「約束」とタイトルが品良くでます
そして彼女が目を上げた時、画面が変わり
冬の日本海沿いを走る急行列車からの光景となります

そこに音楽がかぶさります
まるでビットリオ・デ・シーカ監督作品の音楽のような哀愁と憂いをたっぷり含んだものです
素晴らしい劇伴です

荒れる日本海のすぐ脇を、ディーゼルの国鉄色の長い急行列車が雪の降りそうな薄暗い鉛色の曇天の中を走行します

短いトンネルに入ったり抜けたり
トンネルの中は真っ暗です
そこに白く出演者とスタッフの文字がでます
すぐトンネルを抜けて、一瞬線路脇に雪の残る光景が見えたと思ったらまたトンネルで真っ黒
するとまた次の文字がでる
それが幾度か繰り返されていくのです

もうこの段階で、私達の心は鷲掴みにされています
ラストシーンまで目が離せなくなっているのです

そこからは彼女の記憶の物語となり、ラストシーンで、また冒頭の公園にもどってきます

ラストシーンの微かなため息で私達はタイトルの意味と余韻を噛み締めているのです

子犬のように蛍子の後を、どこまでもついて歩く若い男

中盤で再開を約束した連れ込み宿で、宿の女将と御用聞きの男との僅かに性的な下品な軽口を聞いて心が変わり、部屋にはいって化粧をし髪を下ろし、その若い男を待つ蛍子

3時には必ず乗らないとならない急行列車が来る

もう若くない女
もう女と見られなくなるのもあと少し
時間がない
もうあきらめていたはずだった
でも、ふとしたことで知り合った男
もしかしたら女として扱ってくれるかも知れない
この機会を逃したら次はない
過去は知られたくはない
だが男だって何か訳のありそうだ
同じじゃないか
そう思ったらもう忘れられない

こうした女の本音がこの物語の中に濃縮されているのです
しかし結局はため息で終わるのです
そんな心象風景が日本海沿いの寒々しい光景に込められています

大部分のシーンを急行列車内が占めます
急行列車はどこまでも走り、長い女の人生を象徴しています
初老の女性監視官は世間とかそんなものを暗喩しています

冬の日本海沿い
雪に埋まるのはもうすぐ
それは刑務所に戻ることの暗喩でもあったのです

自分の為に泣いてくれる男
それが欲しかった
子犬のように、弟のように母性本能をくすぐってくれる男

結局ただ老いていくだけ
まるで刑務所に入るようなものだ

それが蛍子のため息なのでした
女の本音が詰まっている映画だと思います

蛇足
急行列車は、劇中で急行しらゆきと分かります
しかし劇中では実際と異なる映画用の設定となっています

本当の急行しらゆきは、金沢と青森を結んでいましたから、劇中のように名古屋には行きません
また、羽後駅は山形あたりの架空の駅ですが、急行しらゆきのダイヤからは上りも下りもかけ離れた時間に発着することになっていました
さらには劇中では夜行になって早朝名古屋駅着ということになっています
路線は当時すでに電化されていますが、実際の急行しらゆきも、本作の通り電化区間をディーゼル列車で運行していたそうです

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あき240

3.5逃げ場のない女と男の惹かれあう切なさを繊細に描く日本映画の佳作

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波

外国映画ばかり観ていた時期に鑑賞し、新鮮な感動を得ました。まるでフランス映画を観ているかの印象を持ったからです。岸恵子の上品な立ち振る舞いからは想像しにくい役柄と、テレビドラマ「傷だらけの天使」でファンになった萩原健一の初々しい演技が、日本映画ではなかなか味わえないものでした。石森史郎の脚本が素晴らしいと思います。

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Gustav