「西田敏行と振り返るあの頃のプロ野球」がんばれ!!タブチくん!! 激闘ペナントレース モアイさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0西田敏行と振り返るあの頃のプロ野球

2025年5月4日
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鑑賞方法:VOD

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令和6年10月17日に西田敏行さんが亡くなられた。
映画主演作では何と言っても押しも押されぬ人気シリーズ「釣りバカ日誌」(88年~09年)があり、脇役でも「アウトレイジ ビヨンド」(12年)の関西ヤクザのインパクトは未だに生々しく記憶に残っています。
その一方でテレビでの活躍も多い人で、役者業ではないものの「探偵ナイトスクープ」(01年~19年に出演)でVTRを見ながらオイオイ泣いている姿が個人的には一番印象に残っていたりもするのです。
スターというよりもっと身近な存在と錯覚させる素朴な親しみやすさを持った役者さんでしたが、そんな故人のキャリアを改めて眺めていると失われた存在の大きさに今更気づかされるのです。
そしてそんなキャリアの中に不意に「がんばれ!!タブチくん!!」シリーズの名前がある事を見つけたのです。その時まで全然知らなかったのですが、このアニメ映画シリーズの主人公:タブチくんの声をあてていたのが西田敏行さんだったのです。つまりこれも故人の映画主演作の一つだった訳なのです。

私の幼少期には既に一般的な家庭にはビデオデッキが普及していました。親が自分のお目当てのついでにレンタルしてきてくれたり、テレビ放送を録画してくれたビデオテープでアニメや特撮作品を見ていたのが私の幼少期の映画体験のほとんどでした。もちろん劇場へ連れていってもらった事もあります。しかし映画に触れていた時間の多くは家のテレビででした。そしてそんな幼い私の幾つかのヘヴィローテーション作品の中に、「大長編ドラえもん」シリーズやフジテレビ放送版「ウッディー・ウッドペッカー」にまじって本作「がんばれ!! タブチくん!! 第2弾 激闘ペナントレース」(80年)があったのです。

当時はもちろんキャスティングなんてものは気にしていませんでしたが、今改めて観直してみてもあまり西田敏行の声だ!とはなりません。記憶の中にあるあの、低く少しくぐもって丸みのある声とは違って聞こえます。しかし試しに当時の他の出演作を観てみると確かに西田敏行の声なのです。そしてそんな当時(32歳)の若い西田敏行の声が、このドタバタ喜劇のアニメ映画の主演として実に見事にハマっているのです。

皆さんも経験がある事と思いますが、アニメ作品を観ていると「このキャラクターの声、なんか変だなぁ…」と感じる事がたまにあります。なのでその声の主を調べてみると普段特に演技の仕事をしている訳ではない著名人だったりするのです。ただ、それならまだ合点がいくのですが、中には特段下手な印象のない役者さんだったりする事もあります。
たぶんこれは大抵の日本人が物心つく頃には絵から聞こえてくるべき声質、または流暢に日本語を話す欧米人から聞こえてくるべき声質というものを自然と刷り込まれているせいだと思うのです。そしてそれに当てはなまらない声が聞こえてくる事にどうしても違和感や忌避感を抱いてしまうのだと思います。なのでこれはもう演技の上手い下手以前の、理屈を超えた問題なのです。

その点このシリーズで西田敏行が聞かせる声は絵から聞こえてくるべき声質として完璧です。やたら色んなキャラをやらされ便利に使われる富山敬(95年没)、試合中もベンチでチームを見守る球団オーナーの肝付兼太(16年没)、創設間もないチームの指導に四苦八苦する監督の内海賢二(13年没)、「タブライク」を宣告するアンパイアの たてかべ和也(15年没)、他人のチームの試合中のベンチでたこ焼きを食べながら駄弁るプロ野球投手の青野武(12年没)、学級新聞のために朝まで取材する所沢第3小学校生の野沢雅子!などなど上げれば切りのない、特定の世代以上の方なら一度は耳にした事のある錚々たる声の中心に西田敏行がいるのです。

この映画の原作はいしいひさいちの漫画で、劇場公開用のアニメ作品として3作品製作されたのですが、何故かウチには第2作である本作のビデオテープだけあったのです。そこで今回、第1作、第3作も鑑賞しましたが、やはり思い入れ込みでこの第2作が一番面白いと思いました。

1978年(昭和53年)のシーズン終了後に福岡を本拠地としていたクラウンライターライオンズを西武鉄道が買収して創設された西武ライオンズ。
本拠地は埼玉県所沢市の山奥に鬱蒼と生い茂る木々に囲まれてポツリと存在する球場に移されたのですが、これはギャグ漫画的な誇張表現ではなくリアルなのです。事実今も西武ライオンズの本拠地は当時と変わらず所沢の山の中にあります。
そしてこの映画の第1作が公開されたのはそんな新設球団の初年度のシーズンが終わった1979年(昭和54年)の11月です。今回の第2作は球団2年目のシーズンがスタートした直後である1980年(昭和55年)の5月。第3作は2年目のシーズン終了後の1980年(昭和55年)12月です。

この映画製作のスパンの早さも今となっては驚きですが、「タブチくん」やら「ヤスダ」などとクレジットされているキャラクターのモデルが実在のプロ野球選手である田淵幸一や安田猛である事は明白です。そもそも隠すつもりなど毛頭ないのですが、どうせ肖像権やらなんやら諸々の権利に関する許諾など取っている訳もないのです。時代的に!
それでも特に問題なく漫画が連載され映画が公開されていただけでも今の感覚では到底考えられませんし、幼少期は何も気にせず笑っていましたが内容も内容です。

タブチくん(田淵幸一):「打てない・走れない・守れない」の三拍子そろった大型(体型が)スラッガーでチームのお荷物扱い。ギャグのほとんどがその体型を揶揄したもの。
しかも小手指にある、「ちびまる子ちゃん」のさくら家よりも見劣りのする平屋の一戸建に住んでおり、そこから電車で球場に通っているのです……プロ野球選手が!(現在「小手指駅」は「西武球場前駅」から3駅)
昭和プロ野球史の中心であるセ・リーグの、さらに人気球団であった阪神タイガースから、当時は不人気リーグであったパ・リーグの創設1年目の西武ライオンズに移籍してきており、阪神は自分より若手の掛布を選んだのだと僻んでイジケて選手としてのモチベーションもすこぶる低い。球界の自分への不遇などをミヨ子夫人に訴えるも軽くあしらわられるのがお約束。しかし実際の田淵幸一はタイガース時代に比べると年齢的な衰えはあるものの創設したばかりの球団が数年でリーグ優勝や日本一を達成した事にちゃんと貢献している功労者なのです。

ヤスダ(安田猛(21年没)):やたらと魔球の開発に勤しむが成功しない。基本的に人を食った態度で飄々としているがヒロオカ監督(本作の80年シーズンには監督を退任しており前監督)を大の苦手としている。タブチくんとは大学野球時代からの因縁があり、セ・リーグのヤクルト所属なのだが何かにつけて登場する作品の人気キャラクター。映画の第1作より出番が多いのも本作の評価ポイント。ツギハギだらけの車に乗り、やたら小汚く描かれる……ひどい!
実際の安田猛はプロ野球選手としては小柄ながら高い制球力とスローボールに癖の強い変化球で活躍し、78年の球団初のリーグ優勝にも貢献した大投手です。

ヒロオカ(広岡達朗):スラリと高身長でメガネの奥の流し目がなんともクール。感情の起伏がない淡々とした口調だが圧のある喋り方をし、常に冷静沈着のようでいて度々表情を変えずに怒る。巨人出身の伝説の遊撃手。巨人軍栄光のV9の初めの年はまだ現役でレギュラーだった。現役引退後は監督としてヤクルト(78年)と西武ライオンズ(82年)をそれぞれ球団史上初優勝へ導く、元アンチ巨人の私も黙る偉人。

ノムラ(野村克也(20年没)):私がプロ野球観戦を嗜む様になる頃には既に監督としてヤクルトを常勝軍団にしていたので、1980年(昭和55年)当時はまだ現役だったことに先ず驚きます。(ちなみにこの年はあの王さんの現役最後の年でもあります)
この年 南海ホークスに入団したドカベンこと香川伸行(15年没)が「目標は生涯一捕手の野村さんです」とコメントした事でやる気に満ちているがキャッチャーなのに2塁まで送球が届かない。タブチくんとはレギュラーを競う仲。実際のノムさんはありとあらゆる戦術を編み出しプロ野球を大きく変えていった智将なのですが、本作ではまるでドラマ「裸の大将」の山下清です…。

他にも『巨人を辞めたハリモト』とウグイス嬢にアナウンスされながら打席に入り、三球三振をしながらタブチくんに『間違っても巨人へ行きたいと思っちゃいけないぜ』とアドバイスする張本勲(本作の翌年、81年(昭和56年)のシーズンで現役引退)。試合中の放送席に座る、妙に体が大きく描かれた別所毅彦(99年没)や金田正一(19年没)はまるで妖怪の手長足長なのです―。

というように事実を誇張しているだけならまだしも全くの事実無根で膨らませたギャグ描写もあり、著名人と一般人が日々SNS上で殴り合いをしているような現代では到底成立しないような映画なのです。
ただ、この45年前の1本のアニメ映画を観ただけでもSNSは人類には早すぎたのか?だとか当時のパ・リーグや漫画、アニメの社会的地位だとか有名人の持つ各種権利や人権意識の問題だとか・・・そういった色々な事について自然と思いが巡ってしまいます。
それはこの映画の内容が事実を誇張または逸脱して表現された物であったとしても、その時代の雰囲気をちゃんと色濃くフィルムに定着させているからなのではと思うのです。
そして当時のアニメ界を彩った声の数々やプロ野球の状況に端的にではありますが触れる事ができ、そこに数々の新たな気づきがあるのです。
今回は西田敏行さんの訃報に触れて何十年振りかの鑑賞となりましたが、西田敏行さんをはじめ出演者やモデルとなった人物に亡くなっている方の多い事が45年という歳月の重みを感じさせます。そしてその歳月の重みはプロ野球や漫画、アニメ、人々の社会意識などなど、それらの変化を感じる事で更に重みを増すのです。

うっかり公に発見されると今では作品が封印されかねない内容ですので個人的にこっそり大笑いしながら観るのがお勧めですが、再びこの作品に目を向ける切欠をくださった故人を偲んで。

モアイ
琥珀糖さんのコメント
2025年5月7日

おはようございます。
コメント・共感ありがとうございます。
「メイ・ディセンバー」は、変な映画でした。
この映画のジュリアン・ムーア演じる女性は、
宗教家のような人で、フリルとかレースのフェミニンな服の好きな
インチキ魔女みたいな人かも。
とんでもない事をしても、罪の意識は微塵もなかったかもですね。
スキャンダラスに見せかけて、集客するハリウッド商法に
腹が立ちました。
実は芸術映画です、みたいなインチキ商法でした。
観た私も商法に乗せられたと思います(笑)

今年のプロ野球もだいぶん過ぎましたね。
楽天とは5月9日からエスコンで3連戦ですね。
浅村選手が春から好調ですね。
巨人戦で、なんか阪神が打ちまくってますね。
ソフトバンクが不振から盛り返したり、オリックスが
予想以上に強かったり、開けてみないとわからないものですね。
日本ハムは、どうなんでしょうね。
長いペナントレースなので、怪我なく戦ってほしいです。
本当に何でも詳しいですね。
交流戦で潮目が変わることが多いのですね。
去年は楽天が交流戦で優勝でしたよね。
負けないので本当に驚きました。
「サンダーボルツ*」を観てきたら、またコメント致しますね。

琥珀糖