スピオーネ
解説
「メトロポリス」に次いで製作されたフリッツ・ラング氏監督作品で、例によって氏の夫人たるテア・フォン・ハルボウ女史が自作の物語を脚色したものである。撮影者は「王城秘史」「世の果」のフリッツ・アルノ・ワグナー氏で、セットは「メトロポリス」と同じくオットー・フンテ氏とカール・フォルブレヒト氏とが設計した。主演者は「メトロポリス」「クリームヒルトの復讐」のルドルフ・クライン・ロッゲ氏、映画初出演のウィーン生れの舞台女優ゲルダ・マウルス嬢及び「ワルツの夢」のヴィリー・フリッチ氏で、「野鴨」「除夜の悲劇」の監督者ループ・ピック氏、映画初お目見得の新進女優リエン・ダイヤース嬢、「メトロポリス」「野鴨」のフリッツ・ラスプ氏、「エムデン」「妖花アラウネ」のルイス・ラルフ氏、クレイグホール・シェリー氏等が助演する。(無声)
1928年製作/ドイツ
原題または英題:Spies Spione
ストーリー
世界大戦がすんで平和克復されたが、それは表面のことで、隠密の裡には恐るべき間諜戦が行われている。欧州の某所に本拠を置いて各国の秘密を探知してはその当局者の胆を寒からしめてる大仕掛な組織的な間諜団がある。あの首領はハギという脚の不自由な男である。彼の視線の動く所、彼の見えざる魔手の延びるところ、如何に極秘に附せられた秘密書類も忽然として消え失せてしまう。かくの如き魔力を持っているハギの正体を知っている者は其の部下にさえ一人もいない。或時の彼は銀行員であり、或時は道化役者、或時は政府の密偵にすら姿を変える。彼は誰でもあり、また誰でもない。彼の目的が奈辺に存するかは必死になって彼を追跡している世界各国の当局者にとっては永遠の謎である。世人はハギ銀行の頭取が極めて善良な財政家であることを知っている。然し、ハギが此の銀行を以て己が間諜事業の経済的基礎にしていることは何人も知らないのである。ところが此のハギに取って油断のならぬ男が一人だけいる。それはドナルド・トレメーンと称している若い男である。英国秘密探偵局では彼は密偵326号である。ハギは此の326号を操縦して見たいという欲望を抑え切れなかった。そこで部下の一人で美しい女間諜ソニアに旨を含めて彼と近付かせる。326号はソニアの美しさに心を惹かれ彼女と恋するようになる。ソニアの父と兄は共に間諜で捕えられて死刑に処せられているので、326号は彼女にとっては仇敵も同様であった。しかし恋は魔物のたとえでソニアはトレメーンを愛するようになる。それを知ったハギは直ちに彼女を幽閉してしまう。その頃日英秘密条約が調印されんとしている。両国は此の密約を絶対秘密に保たんとする。日本の秘密探偵松本博士は自身此の条約を本国へ届けようと決心する。ハギは奸策を廻らしてキティーという女間諜をして巧みに松本の家へ住込ませる。彼女を真に寄辺なき孤児と信じて心を惹かれた松本は遂に一夜大切な秘密書類をキティーに盗まれてしまう。松本は切腹して果てる。ハギは326号を陥れるために326号が密書を携えて国外へ赴くように狂言をうって、彼が乗った急行列車がトンネル内で衝突するように企てる。此の計は成就したが326号は微傷も負わずソニアは彼の味方となる。ハギの右腕の間諜モリエはソニアが裏切った事をハギにラジオで知らせ自殺する。ハギ銀行は官憲に襲撃されハギは逃走したが道化役者の変装を見破られ自殺して謎の生を終る。
スタッフ・キャスト
- 監督
- フリッツ・ラング
- 脚色
- テア・フォン・ハルボウ
- 原作
- テア・フォン・ハルボウ
- 撮影
- フリッツ・アルノ・ワグナー
- セット
- オットー・フンテ
- カール・フォルブレヒト