タルチュフ
解説
モリエール作の有名な喜劇を映画化したもので「最後の人」「カリガリ博士」の原作者カール・マイヤー氏が台本を執筆し、「最後の人」「ファントム」等と同じくF・W・ムルナウ氏が監督し、「最後の人」「曲芸団」と同じくカール・フロイント氏が撮影したウーファ社一九二六年度作品である。主役は「曲芸団」「最後の人」「肉体の道」等主演のエミール・ヤニングス氏で、「カリガリ博士」「真夏の夜の夢(1925)」等出演のヴェルナー・クラウス氏、「玉城秘史」「岡寺の観音」等出演のリル・ダゴファー嬢を始め、ルチー・ヘーフリッヒ嬢、ヘルマン・ピヒャ等が助演している。無声。
1926年製作/ドイツ
原題または英題:Tartuffe Tartuff
ストーリー
とある田舎町に老衰し切った金持のお爺さんが身よりもなく暮らしていた。その傍にあって働く老婆は中々のしたたか者で表には笑を浮かべ腹の中ではよからぬ事を企らんでいた。老人は余命いくばくも無い事を悟り身内の若者を呼びよせる事にしたが、そうとなるとお金の分け前の事から召使の婆さんの陰険な顔は益々刺々しくなりお爺さんを虐待することが募った。時に村から村へと活動写真を持って廻る興行師がこの町へ来て「タルチュフ」と云う外題の活動写真を見せた。……今は昔フランスの豪家の主人にオルゴンと云ういとも信仰厚き人があった。エルミルと呼ぶ美しい妻と何一つ不足のない生活をしていたが、ある日異様の装いをした大男の僧が伴い来り、下へも置かぬもてなしをした。僧はタルチュフと云う世にも稀なる聖者だと云う事だった。がその振舞は傍若無人でただオルゴンの前でだけ鹿爪らしく神の道を説いた。しかも聖なる言葉を語る間にエルミルの艶姿を毒蛇の如き目を以て盗み見た。タルチュフの手はオルゴンの目を掠めて次第に奥方の身辺に伸びて行った。奥方はもう耐えることが出来なくなってタルチュフの事を一切涙と共に良人に告げた。オルゴンもいささか妻の真心からの言葉に動かされ一計をめぐらす事にした。オルゴンは暫く旅に出て帰らぬ旨をタルチュフに語り留守を頼んで家を出た。その夜更けてから奥方は何時になく念入りに化粧をしタルチュフをわが室へ招いて貴い御教えを伺いたいと云った。タルチュフは時こそ来れりとばかり気味悪い笑いを洩らしていたが矢庭に奥方の肌に口づけをしかけた。その時いつの間にか帳をかかげて姿を現したのは主人のオルゴンであった。タルチュフは今はこれまでとその場を逃げんとしたが、かねて控えの召使に取押えられ、その上争いの際彼が稀代の悪漢であることを証拠立てる極悪人のしるしまで見付けられてしまった。……活動写真は終わった。見物の町人は期せずして老人を虐待する老婢を思い出し、彼女を町から逐って折柄合せた若者に老人の世話をさせた。