「一生の起承転結」道(1954) 赤ヒゲさんの映画レビュー(感想・評価)
一生の起承転結
二十歳前後のとき、映画史に残る名作と思って初めて観たときの印象は、不愉快、意味不明、退屈といったものだったと思います。以来観てなかったのですが、先月観た「国宝」(25)の中で、主人公の喜久雄(吉沢亮)が失意のドン底でビル屋上をさまようシーンを観ながら、何故かふと、今作のことが思い出され、DVD観賞しました。身体に巻き付けた鉄の鎖を断ち切るという野暮な芸で生計を立てているザンパノ(アンソニー・クイン)は、女好きで酒癖が悪く、乱暴で粗野な男です。若い頃は嫌悪感しかなかったのですが、今みると、彼の生い立ちが想像され、ある種の人間味や逞しさ、そうせざるを得ない哀しさが感じられ、僅かながら共感できるものもありました。一方、ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)の方は、知恵の遅れがあり、器量はよくないし、料理もできない、醜い道化のようですが、すぐにラッパを覚える器用さがあったり、くるくる変わる表情のように、現実をあるがままに感じて喜怒哀楽を表現する姿には愛おしさも感じられました。貧しく厳しい運命の起承転結の「転」となるのが、綱渡り芸人イル・マット(リチャード・ベイスハート)との出会いだったように思います。華麗な芸をもつマットは、ザンパノをからかい、笑いものにしますが、どこかで彼のことを理解していて、だからこそジェルソミーナに対して、小石にも存在理由があり、彼にはあなたが必要というような言葉で彼女を励ましたのでしょう。この辺りからの展開、ニーノ・ロータの美しい旋律、海辺でのラストシーンを観て、映画史に残る名作といわれる所以をようやく理解することができ、心の奥にひっかかっていた棘がとれたように思いました。