劇場公開日 2020年8月3日

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道(1954) : 映画評論・批評

2020年5月26日更新

2020年8月3日よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー

※ここは「新作映画評論」のページですが、新型コロナウイルスの影響で新作映画の公開が激減してしまったため、「映画.com ALLTIME BEST」に選ばれた作品の映画評論を掲載しております。

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眠気を我慢したご褒美、最後の最後に凄い見せ場。そして「映像の魔術師」の片鱗

イタリア映画は、どちらかというと苦手な部類でした。それは、高校生の頃にビスコンティの「イノセント」を見に行って玉砕した経験があったからです。若い頃は、背伸びして映画を見に行ってもろくなことがない。意味が分からないから、寝るしかない。デートの映画にイタリア映画なんて選んだら、確実に失敗する。

だから、フェリーニ作品にはできるだけ近寄らないようにしていました。同じイタリア人でも、ビスコンティよりもさらにハードルが高そうなイメージがあったからです。学生時代、何本か見たことは見ましたが、ほとんど記憶にない。

そしたら先日(2020年5月)、近所に住む70代の義母が「フェリーニの『道』を久しぶりに見たい。女学生の頃(1960年前後)、日比谷に見に行ったけどあんまりいい印象が残ってない。もう一度見て確かめたい」と言うではありませんか。そんなのお安いご用です! この機会に私もフェリーニとちゃんと向き合おうと思い、ストリーミングで鑑賞することにしました。

「道」は1954年の製作で、日本初公開は1957年。私が生まれる前です。ベネチア映画祭の銀獅子賞やアカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。映画.comのオールタイムベスト1200本にも選ばれています。

スタンダードサイズ、モノクロで、実に時代を感じさせる内容です。主人公は、自らの上半身にチェーンを巻き付けて固定し、そのチェーンを筋力だけで切って解き放つという、かなりプリミティブな芸を披露して小銭を稼ぐ旅芸人ザンパノ(アンソニー・クイン)、そしてそのザンパノに、口減らしのため売られた貧しい娘ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)。

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ザンパノはジェルソミーナを連れて、時にはピン芸人として、時にはサーカス団の一員としてドサ回りを続けます。そこにちょっとした出会いや、シリアスないざこざが起こり、映画は陰影を刻んでいきます。

そこかしこに見られる男尊女卑っぷりが半端ない。「今どきの若者がこれ見たらどう思う?」など考えつつ、尊大な主人と健気な助手(兼妻)の珍道中を見ていましたが、私には、この映画のテーマがなかなか見えて来ない。次第に睡魔が襲ってきます。3幕構成の2幕目の部分、起承転結ならば「承」のパートがかなり長いので眠くなる。ゆっくり走る馬車に揺られ、気持ちよくなっていく感じ。

しかし眠気と戦っていると、馬車は不意に急加速しました。「転」から「結」へと畳みかける手綱さばきがもの凄い。

映画の終盤、フェリーニは実に底の浅いヒューマニズムを提示して、「ああ、それが言いたかったのか」と観客をミスリードするのです。しかしその後、34歳の若き映画監督は、後に「映像の魔術師」と言われる魔術の片鱗を披露します。特に最終盤、主人公ザンパノが酒場から追い出されて海辺へたどり着き、砂を叩きつけるまでの長回しの連打には圧倒されます。

そしてフェリーニは、最後の最後にこの映画の本当のテーマをドドーンと観客に叩きつけ、見事に「Fine」の大写しで締めたのでした。

もう、お見事としか言いようがない。私と義母、思わず大拍手。いいものを見せていただきました。フェリーニ監督作品、お代わり決定です。

駒井尚文

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