「赤い環をつなぐ5人」仁義(1970) 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
赤い環をつなぐ5人
完璧な映画と思った。
冒頭に出る「ジャン=ピエール・メルヴィルの作品」というクレジットが、すべてを表している。メルヴィルは、おそらくこの作品が当たらなければ、フランシス・フォード・コッポラと同じように個人資産を失ったのだろう。それを背景に、極めて緊張感にあふれた脚本を書き、演出し、編集に集中した。一番感じられるのは、静謐。間違いなく、日本映画から来たものだろう。まっすぐキタノにつながっている。「サムライ」に続いて、今回は邦題を「仁義」としたことも、うなずける。特に、パリ・ヴァンドーム広場の宝石店を襲うセリフのない25分間が圧巻。時間配分から考えても、ラストはお決まりに近い形か。
映画からの帰り道、外堀通りを飯田橋駅に向かって歩きながら、原題である「Le Cercle Rouge(赤い環)」って、何を指すのか考えた。しばらくして、次の5人を指すのかなと思った。
まず、偶然に知り合う主人公の二人、マルセイユ近郊の刑務所を出所したばかりのコレー(アラン・ドロン)とマルセイユから夜行の寝台列車でパリに護送されるヴォーゲル(G・M・ヴォロンテ)。次に、ヴォーゲルを護送する列車から逃がしてしまった警視マッティ(A・ブールヴィル)と、その上司で監察局長のマルシャン(P・アミオ)。彼らは、一度にではなく、輪で繋がれるように、順繰りに出てくる。そして、最後にマルシャンの教え子、マッティの元同僚であり、ヴォーゲルの仲間でもあったジャンセン(イヴ・モンタン)が、コレーとヴォーゲルの仲間に加わって、宝石店を襲う計画を進める。彼らは宝石店に侵入して手に入れた宝飾類を換金しようとするが、マッティは、3人を罠にかけようと企み、それを見守るのがマルシャン。最初に、ヴォーゲルに逃げられてパリに戻ったマッティに、捜査の継続を指示したマルシャンがかけた言葉が、最後になってまた出てきて、環が閉じる。何という周到な設定と脚本。
環を回しているのが、ヴォーゲルの昔の仲間で、彼らに代わりの換金商の紹介を頼まれたのにマッティに情報を提供するサンティ(フランソワ・ペリエ)と、コレーの昔の仲間で彼を裏切った上に、彼らの選んだ第一の換金商の仕事を邪魔するリコ(アンドレ・エキアン)。少なくとも、ヴォーゲルとマッティの間には、乾いた友情「仁義」が感じられる。
演技の中心は、何と言ってもアラン・ドロンの演ずるコレー。「サムライ」に続いて、ドライでニヒルな設定が生きる。アメリカからの影響も顕著で、彼が乗り回す車は、アメ車、プリムス。サンティの経営するナイトクラブでは、美しい女性たちのアメリカ風のダンスが楽しめる。イヴ・モンタン演ずる、アル中から回復した無類に格好いいジャンセンは、おそらく自分の運命を知っていたのではないか。彼の射撃する姿は、そのまま「ジャッカルの日」に引き継がれている。
50年以上経っても、今に生きるフランス映画、フィルム・ノワールの傑作!