劇場公開日 1966年7月9日

「誘拐か妄想かの謎を最後まで持続させたサイコスリラーの、シャープさとユーモアのイギリス映画」バニーレークは行方不明 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5誘拐か妄想かの謎を最後まで持続させたサイコスリラーの、シャープさとユーモアのイギリス映画

2020年11月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

約50年振りの再見。
結末の印象が深く残っていたため今回衝撃はないが、バニー・レークは誘拐されたのか、それともアンの妄想なのかの推理を持続させるサスペンスフルな話術が細かく練られていて、シャープな演出と共に愉しめた。”子供の庭”保育園の迷宮の様な屋敷、レーク兄妹が間借りしていた邸宅と引っ越し先のアパートを主要舞台にした演劇趣向のサイコスリラー。またヒッチコックの「サイコ」やマーク・ロブスンの「屋根の上の赤ちゃん」を想起させる内容と面白さがある。ローレンス・オリビエ演じるニューハウス警部が真摯に取り組む捜査過程で邪魔をするように現れる、大家ウィルソンと保育園の引退したマダム フォードとの会話に、イギリス映画らしいシニカルなユーモアがある。ノエル・カワードがオリビエに身元を尋ねられて言う台詞、(サインは遠慮してくれ)が可笑しいし、テレビに活躍する文化人の本人に近い役なのに、オリビエの部下に(とんだ変態野郎です)と言われる。確かにセクハラに近いことをするサディストのようではあるのだが。フォードを演じているのが、デーヴィット・リーンの「大いなる遺産」のマーティタ・ハント。子供が話す絵空事を録音したものを嬉々として聴いている空想好きのヘンなおばさんを彼女が演じると妙に存在感があり、個性的な容姿から雰囲気まで味のある女優だ。キャロル・リンレーは、作品に恵まれなかった女優のひとりでも、このアン・レイク役は好演だと思う。キア・デュリアことケア・ダレーは、翌年の「母の旅路」の好青年の真逆の役。結局ふたりの兄妹役がぴったり嵌っているし、このふたりが一番異常だという映画のオチが効いている。
オリビエとリンレーがパブで食事する場面で、テレビからザ・ゾンビーズの歌が流れる。この歌詞が事件のヒントになっているのも工夫されている。ソウル・バスのタイトル・バックは、シンプルにして斬新、プレミンジャーの無駄のない演出に合っている。ラストのクライマックスにクロスカッティングを使用して緊迫感を出しても良かったのではないか、と欲も残るが。

Gustav