荒野に生きるのレビュー・感想・評価
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荒野での瀕死体験を経て生まれ変わった男の不思議な話
1820年(文政3年)、アメリカ。
毛皮商であるキャプテン・ヘンリーに率いられた総勢約30名ほどの一隊は、荒野を進みます。この荒野には野生動物や白人と敵対する先住民アリカラ族など、危険がいっぱいです。彼らの面白いのは、大きな船を台車に乗せて20頭のラバに引かせていること。ミズーリ川に到達できれば、あとは船で目的地へ向かう予定です。
道なき道の荒野を船を引きながら進む彼らの姿は、大変滑稽です。しかも船のマストがまるで十字架。船は巨大な棺桶でしょうか。男たちは自分たちが入る棺桶を引きずってさまよう亡者のよう。「船を捨てて先へ進もう」と隊員に進言されても「船は俺の権威の象徴だ」とキャプテンは頑なに譲りません。
彼らが荒野を進むのには明確な目的があります。それは大量殺戮したビーバーの皮を取引所まで運び、大金をゲットすること。銃と大砲で武装した彼らには自然の摂理など関係ありません。金になるなら動物が絶滅しようが知ったこっちゃありません。さらにキャプテンは隊員たちに向かって「お前たちは消耗品だ」と歯に衣着せぬ言葉をかけます。
隊員の一人、ザック・バスさん(リチャード・ハリス)が鹿狩り中にクマに襲われ瀕死の重傷を負ってしまいます。係員が応急手当として傷の縫合はしたものの、どうせ助からない命です。キャプテンは埋葬要員二人を残し、先を進みます。埋葬要員は先住民の襲撃に怯え、ザックを埋葬しないままに隊へ戻ります。
一人残されたザックは驚異的な生命力で、生き延びます。身体を枯れ葉に埋め体温を温存し、水を手に入れ、食物を手に入れ、少しずつ体力を回復し、針金やナイフなどのアイテムを手に入れ、罠を仕掛けて獲物を捕るまでに。毛皮を縫って服も作ります。罠猟師でありmountain-manであるザックのサバイバル能力は尋常ではありません。
本作中、一度だけザックは笑顔を見せます。それはナイフを使って火花を散らし、火を起こすことに成功した時です。文明人が忘れてしまった、原初的な生きる喜びに満ちたシーンでした。
ザックは孤児院を抜け出し、キャプテンの船に潜り込んだ男です。キャプテンはザックを最も尊敬し、最も恐れていたと述懐します。ザックは自分の周りに円を描き、その中に誰も入れない男だったと語ります。神にも反抗的で、孤独な男だったようです。
ザックには賢い身重の妻がいましたが、妻に先立たれ、子を残しこの狩猟の旅に参加しており、そのことを後悔しています。彼の行動には明確な目的があります。それは自分を見捨てたキャプテンに復讐をすることと、子の元に帰ること。
森の中で産気づいた先住民の女性が出産するシーン。ザックは物陰からその様子をじっと見守ります。仲間に捨てられたザックは自然の中で自然の摂理に従って生きる先住民たちに共感を寄せているように見えます。
キャプテンたちはやっとミズーリ川までたどり着きますが、川の水量が足りず、車輪は泥に埋まり、にっちもさっちも動けなくなります。チャンスとばかりに大勢で襲いかかるアリカラ族の男たち。ザックもその乱戦の中に巻き込まれます。
アリカラ族の族長はザックを助け、「一度死んだ者は二度は死ねない、この荒野では」と印象的な言葉をかけます。そして武器を渡し、キャプテンへの復讐を果たすように促します。
ザックはキャプテンの方へ歩み寄りますが、殺すことなく立ち去っていきます。「俺は家に戻る」と言い捨てて。男たちやキャプテンも、毛皮を積んだ船を捨ててザックの後を追い歩き出します。
ヒュー・グラスという男の実話を元にした映画です。
ハリウッド西部劇が衰退しゆく70年代に爪痕を残した傑作ウエスタン
実話を題材にした1820年代初頭が舞台の西部劇。
初めて見るのに既視感あると思ったら、レオナルド・ディカプリオ主演の『レヴェナント 蘇りし者』(2015)とモチーフが同じ。アメリカでは有名な話らしく、TVも含め本国では何度も映像化されているそう。
『レヴェナント』が暗く陰鬱な色調でサスペンスや悲劇性を強調したのに対し、逆行や霧を利用した美しい映像や凝った構図のカメラワークが印象的。
回想シーンを効果的に織り交ぜた抒情詩的な構成も秀逸。
一方で大砲を積んだ船をラバに曳かせて雪原を彷徨するシュールな情景や、白人も先住民も関係なく闘いに斃れて雪解けの泥濘に同化していくさまはボスやブリューゲルの幻想絵画のように神話的で暗示的。
自身の権威である船に執着するヘンリー船長のアンクル・サムのような出で立ちにも寓意性を感じる。
殺された息子の復讐へと主人公が突き動かされる『レヴェナント』とは異なり、本作は赦しがテーマ。
「息子に会いに家に帰る」と言い残し去って行くバスのあとに多くのハンターが続いていくラストシーンも、ベトナム戦争末期に本作が作られたことを思えばメッセージ性が汲み取れる。
ザック・バスをハリウッドで永らく活躍した英国出身のリチャード・ハリスが好演。映画監督としての実績が有名なジョン・ヒューストンがヘンリー船長役を抑えた演技で魅せてくれる。
名匠ロバート・アルトマンの盟友にして彼同様、TV出身のリチャード・C・サラフィアン監督の表現力にも注目。
本物と着ぐるみの映像を巧みに編集したグリズリーの襲撃シーンはなかなかの迫力。
CGを使った『レヴェナント』よりも凄いかも。
少なくとも五社英雄監督の『北の蛍』(1984)よりは、はるかに上(あれにはクマりました)。
NHK-BSにて初視聴。
1820年代のアメリカ西部、主人公(リチャード・ハリス)は船を運ぶ...
1820年代のアメリカ西部、主人公(リチャード・ハリス)は船を運ぶ荷馬車隊にいたが、途中で熊に襲われ、瀕死の重傷を負う。
荷馬車隊の隊長(ジョン・ヒューストン)は先住民に追われていたため、主人公を置き去りにする。
奇跡的に一命を取り留めた主人公は・・・。
これが実話らしいから驚く。
観ているのが辛くなる展開
"TheRevenant"
監督のリチャード・C・サラフィアンは『バニシング・ポイント』も本作と同じ71年に公開させた強力な二本を叩き付ける手腕にビックリ仰天、予備知識無しで観ながらも早い段階でイニャリトゥの『レヴェナント:蘇えりし者』が思い浮かび、本作をリメイクした訳ではないだろうが原作のマイケル・パンクを下敷きに実在したヒュー・グラスを描いた二本の作品、熊との格闘シーン含めた映像の迫力に違いはあれど物語の進み具合に何ら変哲もなく、本作は99分でイニャリトゥ版は156分とラストの復讐が映画の方向性を別の物に。
イニャリトゥ版よりも先に本作を観ていたら評価も上がっていたがどうしても比べてしまうのは致し方がない、復讐を選ばなかった主人公と仲間の数々が家族のもとへ帰るラストが美しく思える。
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