愛、アムールのレビュー・感想・評価
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そこに至るまでの過程
観ているほうが息苦しさを覚えるほどに、夫の切実な心の葛藤と苦しみが静かに流れる二人の日々に蓄積されていくのがわかる。
肉体の死が先で次に記憶の中から消え去る魂の死がくるとはよく言ったものだが、それは何もその人が亡き後とは限らない。
愛とは残酷で儚い面も背中合わせなのだと思わざるおえない。
誰もが避けられない老いと死だけではない、美しい夫婦愛だけでもない、
静寂な作品の中に投げかけられた愛の重み。
(3.7点)
至高の愛情
良質な作品である。
『白いリボン』や『ピアニスト』で知られるミヒャエル・ハネケの集大成。70歳でも現役の映画監督というから驚きだ。今回の作品は70歳を迎えた彼だからこそ撮れる作品なのだろう。
また、ジョルジュ役には『男と女』のジャン=ルイ・トランティニャン。『男と女』の公開から半世紀も経つのかと思うとそれだけで"人生とは"と考えさせられる。語らずして愛を語る男として右にでるものはいないトランティニャンだが、本作品でも表情や沈黙で観客に語りかける。しかし、彼の考えていることの全てを理解することは不可能だと感じた。ジョルジュがアンヌに対する感情は、他の何者にも理解できない深い深い愛情だからだ。
静かな二人の老後の生活を作品全体の空気感で表現している。
カットの少ない演出は、観客をじりじりと二人の世界観へと引きずりこむ。残酷なまでにリアリティを追求し、苦しくも美しい作品だ。
美しさ、儚さ、愛おしさ、それだけでは表現できない、大きなテーマがちりばめられている。人生、愛、そして死。誰もが直面する逃げられない運命を真正面から描いており、ワンシーンワンシーンに胸打たれる。
自分の死を受け入れることと、他人の死を受け入れること。ジョルジュとアンヌのそれぞれの瞳に映る現実を通して"死"の存在を考えさせられた。
人生の節目節目で見返したい作品である。
見て見ぬ振りをしても、そこにある現実
老老介護をテーマにした作品。どんなに裕福で教養ある家庭でも病気や老いは平等に訪れるのだということを改めて思い知らさせる。主人公の境遇は誰にも起こり得るが、自分はその時どうするのだろう。もっとキツい描写も出来たと思うが、ハネケにしては抑えられた印象なので観易いと思う。
ファンタジーではない、現実の愛
この映画を観て深く胸をつかれた人は多いのではないか。
初めて真実を知った人、後悔の念に囚われる人もいるかも知れない。
父母の絆の裏側までは知らない子供たちは、なぜ病院や介護施設に入れないのか?の一辺倒だ。それが現実。
そして、言うことを聞かない、頑固で手が付けられないと言って見放して行く。外にいて何もしない自分を正当化したいから。
この映画は、介護の壮絶な現場までは描かないがそれでいい。
人生の終末期に信念を貫き通す。
愛をもってそれを表現したのだと思う。
初めてハネケ作品に好印象を持ったのは持ったのだが…
昨年のカンヌ国際映画祭パルムドール、本年度アカデミー賞外国語映画賞を受賞したミヒャエル・ハネケ監督作。
正直、ハネケ作品は苦手。本作同様、カンヌでパルムドールに輝いた前作「白いリボン」も生理的に駄目だった。唯一印象に残ってるのは、「ファニーゲーム」くらい。
話題作なので、覚悟を決めて鑑賞。
共に音楽家のジョルジュとアンヌの老夫婦。ある日、アンヌを病が襲い、入院を拒むアンヌをジョルジュは献身的に介護する…。
これまでのトゲトゲしい作風が消え、ハネケ作品で初めて好印象。
老夫婦の姿を、淡々と静かに見つめる。
決して万人受けする感動作やハートフルな作品ではない。老いや死、老人が老人を介護する現実を痛々しいまでに描いたハネケの演出は深い。
ジャン=ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァは誰にも真似出来ぬ名演。
リヴァはオスカーを受賞すべきだった。受賞した「世界にひとつのプレイブック」のジェニファー・ローレンスの魅力的な演技も、強力ライバルだった「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャスティンのパワフルな演技も素晴らしいが、やはりリヴァが受賞すべきだったと思う。
トランティニャンもノミネートされるべきだった。
高齢化社会の日本において、本作の題材は無視出来ない。
老人が老人を介護する。もし、二人同時に倒れてしまったら、どうすればいいのか。
映画では、二人は上流階級で、周りに娘や音楽家の弟子が居るとは言え、やがて孤立していき、その厳しい現実は変わらない。
そして、行く末に出した決断は…。
崇高な愛、深い愛などと言われているが、とてもじゃないけど美談では済まされない。
初めてハネケ作品に好印象を持ったのは確かだが、やはりこれまで同様、残酷な面も突き付けられた。
愛、アムール
これが映画だ。
カメラは固定。
しかし暴力的なまでにカットが鋭い。
ブレッソン、小津監督という系譜の中で。
映画としての映画がまだ脈々と生きている。
そのことに賛辞をおくりたい。
そしてこの系譜をとぎらせてはならない。
冒頭。消防士が扉を開けると、ベットに横たわる遺体。
その興奮を断絶するようにタイトル。
その後、劇場の観客席をえんえん映す場面。
人が今から始まる公演をただ待つだけのシーン。
これがこれからはじまる物語を観ている私たちにも投影する。
愛の物語。
愛する人が苦しんでいるのを愛している人はどう向き合っていくのか。
そこに善悪はない。
ピンピン…コロリ、それは叶わない願い
3月28日、銀座テアトルで鑑賞。
近い将来、介護状態になりそうな人、すでに介護をした経験のある人…そんな感じのお客さんがほとんど。平均年齢は70歳くらい。
51歳の僕なんかは、小僧っこみたいな感じ。
それはともかく。
フランスにおける老老介護の現実をある意味で描ききったのだろう。
ハリウッドでは絶対できないようなアンハッピーエンドが重い。
そこに突きつけられている、現実、どう受け止めるべきなのか?
しかし、「その現実」を見る、想像することは大切だと思う。
基本的に、重くて暗い作品だが、痴呆が進むヒロインが、写真のアルバムを見ながら、「人生!」とつぶやく、あの場面にはぐっと来た。
2年半前に、85歳で亡くなった僕の父親も、母親が介護していた。
ぼけて、おむつをあてて…。風呂に入れるのも並大抵のことじゃない。
実にたいへん…。
エマニュエル・リバの熱演は賞賛したい。
フランス映画だなぁ。
不謹慎かもしれませんが、結局、病院に入院させるということは、病院に殺してもらうということなんだなと、、それはどうあれとても合法的で、、、それが愛ではないとは映画は言ってませんが、、、
やはりフランス映画なので、起承転で終わりなのです。結は個人、一人一人に委ねられます。
見たくない現実をみる
ハイネ監督は僕らが見たくない現実を描く。
でも、それは決してネガティブな行為ではなく、
ポジティブな意味を込めて・・・。
そうですよね。
「ファニーゲーム」ではわけもわからないまま、不条理な暴力に蹂躙される
夫婦を。「白いリボン」では、わけもわからない出来事によってナチスドイツをおびき出してしまう悲劇を、描いていたと思う。
そして、今度はわけがわからないということはない。
誰でも経験しなくてはならない問題を提起している。
「老い」「死」そして「愛」。
突然、襲ってくる出来事にどう対処するべきなのか?
正解もないだろう。何が倫理的なのかもないのだ。
かっこよく言えば「尊厳死」なのかもしれないけれど、
夫はそのとき、深く考えていなかった。
そう考えたときはもちろん、あったろう。
でも、そのときは夢中になっていたというべきだろう。
それは衝動的なものだったと思う。
そう、人間の考えなんて、行き着くところ、計算なんてないのだ。
でも、映画としての画面は極めて計算されている。
構図はおそろしくストイックだし、音は細部に渡っている。
蛇口から流れる水の音。ページをめくる紙のおと。
夫婦の息づかいもリアルである。
そんな静謐な世界に内なる激しい息遣い。
「老い」「死」そして「愛」
僕はこんな作家を支持します。
日本でどう評価されるかは微妙
公開初日に鑑賞しました。
超高齢化社会にすでに突入している日本では、この映画で紹介されている以上のことがリアルに起こっています。
なので、ストーリーに魅了されることもなく、特に老夫婦の設定が裕福な階級なので、余計に感情移入しにくいと感じました。
景気の悪化による貧困や孤独死などの問題も絡み合って、欧米の先を行く事例を日頃から新聞やテレビで見て「明日も我が身」と感じている日本人にとって、この映画のパワーのようなものは、果たして感じられるかどうか。
逃げないでください、ハネケさん。
老老介護の末に起こる悲劇を描いた映画ですが、他のハネケ映画同様、突然、終わります。いや、終わるというよりは、作品を作る事を放棄してしまいます。さあ、これから先は、あなたたち観客の判断に委ねられているのです。ハネケはこう云い訳しているかのようです。しかし、この監督、毎回、云い訳していますね。これで、カンヌのパルム・ドールですか。いやあ、ハネケさん、楽していますね。内容については、とにかく、痛々しい映画、この一言に尽きます。特に、二度目の発作を起こした後の、エマニュエル・リバは正視できませんでした。鳩が二回、家の中に迷い込んできますが、それが何の暗喩なのか、私には、全然、判りませんでした。もしかしたら、監督本人も判っていないのかもしれません。ここで、鳩を適当に登場させておけば、批評家の連中が勝手に深読みして、何とか云い繕ってくれるだろう。ハネケはこう高を括っていたのかもしれません。
とにかく、ミヒャエル・ハネケは現在、世界で、最も過大評価されている監督でしょう。オペラを作曲した作曲家が長大な序曲だけを作っておいて、いざ、幕が上がると、楽団員も歌手もトンズラしている。勿論、指揮者も作曲家も逃げている。
ハネケさん、そろそろ、逃げるのは止めて、本気で勝負して下さい!
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