「いい点もあるが、ふつうに下手な映画」永遠の0 メンチ勝之進さんの映画レビュー(感想・評価)
いい点もあるが、ふつうに下手な映画
別に特攻賛美映画だとは思わないが、だからといっていい映画ということもない、凡庸な映画。
あいも変わらず山崎貴監督、「あんたCGに専念すればいいのに」と思わざるを得ない作品でした。この人、なんでこんなに名匠扱いされてんですかねえ。
若手の役者さんたちの芝居は、ほんとひどかったです。登場人物の言葉遣いに軍人らしさがないせいもあって、濱田岳君以外は誰も軍人には見えませんでした。
名前忘れたけど、脇で出てたジャニーズの子とか、軍服でコスプレしたヤンキー小僧にしかみえないもんね。
それはたぶん、監督がマトモな演出をしてないせいですよ。濱田君だけ芝居つけたってこともないでしょうからね。山崎映画はこれまでもそうでしたし、役者さんのせいじゃないような気がします。
まあ、それだけだとただの悪口になってしまうので、具体的にダメなところを指摘しておきます。
まず演出ね。
たとえばミッドウェー海戦のシーン、あるいはガダルカナル空襲前のシーン、いずれも岡田君演ずる主人公宮部が(誰に言うともなく)突然大声でわめきだすシーンがあります。
「無理だ!こんな距離では戦えない!」
とかね。
みっともないからそういうのはやめさせなさい。頭のおかしい人に見えますから。岡田君がいくら男前でも、物には限界があります。
作戦に不備があると思ったら、上官に直接意見具申する(そして殴られる)という風にすれば、もっとこの主人公はマトモな、そして信念のある人物に見えたはずです。
でも、間の抜けた芝居のせいでシーンの緊迫感が台無し。
このシーンに限らず、作品を通じて主人公宮部にはイマイチ感情移入しづらいです。ひとつには登場人物の動機が混乱しているから。
この主人公は当初、家族を守るために絶対生きて帰るのだという信念を持っており、そのため戦友からは臆病者だと罵られます。いちおうそこまではスジが通っていますね。
しかし、田中泯の回想パート(青年時代を新井浩文が演じているパート)で、憔悴した宮部は泣きながら「彼らは死ぬべきでなかった、死ぬべきは自分だった」といって取り乱します。
その心変わりがイマイチ納得いかないのよ。
はじめは家族のために戦友を見殺しにしてもいいと思っていたが、実際に死ぬのを目の当たりにしてほだされたってこと?
じゃあ家族のために生き残るっていう信念はどうなったの?
この場面では残念なことに、前述の言葉遣い問題も悪く影響しています。
作品を通じて一人称を「私」、同僚や部下たちを「彼ら」と呼ぶ宮部は非常によそよそしい人物に見えるからです。
「彼ら」って、日本人はふつう会話では使わないでしょう?
まあ、ナレーションとか小説の地の文ならあり得ますが、会話で三人称複数を「彼ら」っていうような人物はまれですよ。
なぜかというと、「彼ら」という言葉には距離感があるからです。ふつうは主人公がこんな言葉遣いはしないんですよ。こういう言葉遣いをするキャラクターといえば、たとえばイヤミなスカした野郎、他人を上から目線で見ているエリート的黒幕、みたいなのがよくあるところです。
こういうところがね、山崎って監督は無頓着というか、分かってないんだわ。CGだけやってればいい、と思うゆえんですよ。
読んでないんで原作はどうだか知りませんが、映画にするときに直したらいい。
それに加えてこの宮部という人物、やたらに「死ぬべきでない」とか「死ぬべきだった」とかいうんですけど、これもしゃらくさいじゃないですか。
他人の生き死にを勝手に決め付けてんじゃねえよ、この小僧!
くらいのイライラ感が募ります。
まあ、人物を魅力的に描けていれば話は別なんですが、ここまで指摘してきたように、どうもイマイチなんですよね。行動は間抜け、言葉遣いはよそよそしい、しかも言ってることのスジが通らない。
更に言えば台詞をぼそぼそしゃべってて聞き取りづらいとか、悪い要素がいっぱい重なって、どうも主人公に対して感情移入しづらいわけです。
もっと言うと、この場面の岡田君は薬物中毒にしか見えません!
突然人柄が変わったっていうし、ヒロポン中毒かと思った客は多いんじゃないでしょうか。作中には明言されてなかったけど、ビジュアル的にはそうであってもまったくおかしくありませんでした。
だから、岡田君が突然わめき出すと「とうとう壊れちゃった」にしか見えないんですよ。新井浩文もすっごい冷たい目でにらんでるし、画面が寒々しいの。
製作サイドは感動的なシーンのつもりだったのかもしれませんが、この場面はぜんぜんそういう風に機能していません。
要するに、ヘタなんだと思うんですよ。役者に対しては判断を保留しますが、監督がヘタなのは議論の余地なし。ほかの作品だって大体こんな感じですもん。
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あと、これは原作に由来する問題じゃないかと思いますが、終盤で染谷君と井上真央ちゃんがデキちゃうくだりもイマイチですね。展開にメリハリがない。
まあ話の流れ自体はよくあるものですから、どうとはいいませんよ。お約束なんで。
ただ、一線を越える瞬間というかな、真央ちゃんが染谷君に心を開く、そのきっかけとか事件が何もないから、ただ状況に流されたようにしか見えないわけです。惰性でくっついちゃった、っていう。
そうじゃなくてさ、たとえば娘が高熱を出して、それを救うために豪雨の中を染谷が医者を呼びにいくとか、貴重な薬を入手するためにヤミ市で命を張るとか、そういうイベントが必要だったんじゃないですか?
そうすると真央ちゃんが心を開くっていう展開に説得力が出るし、銃後で待ってる家族を守るっていう作品自体のテーマともリンクするでしょう。
「おっ、染谷ってああ見えて実はオトコじゃん!」が必要だったはずなんですよ。そうでなきゃ夏八木勲とギャップがありすぎるもん。戦国自衛隊だよ?
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そういう風にいろいろとヘタな映画ではあるんですが、印象としてはそんなに駄作って感じもしないんですね。
それはなぜかというと、ナレーションがすばらしいからです。
この作品は約二時間半ありますが、その八割近くが四つの回想シーンで構成されています。
・導入
・橋爪功の回想
・山本學の回想
・合コン
・田中泯の回想
・夏八木勲の回想
・結末
大雑把に言えばこんな感じですね。
で、この四つの回想パートにはそれぞれ橋爪功なら橋爪功の、山本學なら山本學のナレーションがはいるんですが、このナレーションが皆さんすばらしいんですよ。
少しキツい言い方になりますが、映像や演技がたいした事なくても、ナレーションが超絶的に素晴らしいで、ちゃんとした映画に見えるんですね。
まあ、細かいことを言うと、そのナレーションでも言葉遣いとかちょいちょいおかしいんですけど、そんなの吹き飛ばすくらい見事なんで。
いつも思いますが、新劇出身の役者さんはナレーションとか声の芝居も素晴らしい。
あと、上の四人では田中さんだけ舞踏畑ですが、逆にその異質さというか、きっと本人がそうであろうに違いない「理屈っぽくて面倒くさくて怖いおじいさん」の感じがいいんですね。話の展開と役柄にマッチしてて、これも見事なキャスティングです。
つまり、この作品は「ナレーションでもってる」ということです。
それ以上の上積みがないのは残念ですが、なんとなく「いい話を聞いた」ような気がするのは、ナレーションの力が圧倒的に大きい。
そういう意味で、決して名作とかではないんだけど、頭から全否定するような作品でもないとは思います。
中の下、くらいの感じですね。