劇場公開日 2013年12月21日

永遠の0 : インタビュー

2013年12月12日更新
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井上真央が「永遠の0」で体現した“道標”の役割 そして切なる思いを胸に見据える2014年

女優・井上真央にとって、2013年は「気を抜くことなく楽をせず、常に緊張感をもって過ごすことのできた1年」だったという。第36回日本アカデミー賞で司会を務め、主演作「白ゆき姫殺人事件」で中村義洋監督との初タッグ、野田秀樹演出による「MIWA」で11年ぶりの舞台出演……。地に足をつけて着実に歩を進める姿勢は、今年に限ったことではない。昨年7月、山崎貴監督がメガホンをとる「永遠の0」の撮影では、主演・岡田准一扮する宮部久蔵の妻・松乃として現場に立った。登場シーンこそ決して多くはないが、戦地にいる久蔵の“生きて帰る”目的、いわば道標の役割を担った井上に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)

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井上が演じた松乃は、結婚してすぐに夫が戦地へ向かったため家をひとりで守り、愛娘・清子を出産したという役どころ。百田尚樹氏の同名小説が原作ではあるが、登場人物ひとりひとりの“心”は、当時を生きた多くの日本人の姿と重なる。井上も脚本を読みながら感じ取っていたようで、「松乃のような人はこの時代、特別ではなく、たくさんいたのでしょうね。だから、この時代を生きた女性をちゃんと演じられたらいいなと思いました」と振り返る。

映画は、生きることに執着し「妻のもとへ帰る」と公言しながら、太平洋戦争で特攻により戦死した天才零戦パイロット・久蔵の生きざまと、60年間にわたり封印されてきた真実と向き合う孫の健太郎(三浦春馬)、慶子(吹石一恵)の“旅路”を描いている。

激動の時代を生き抜いた日本人、それも市井の人々について「何の権力も、罪もない人が一番悲しい思いをしたのでしょうね」と話す。さらに、「想像の範囲でしか話すことができませんが、久蔵さんが家族のために生きようとしていたのと同じように、松乃もあの苦しい状況下にあっても生きなければいけないと思ったのは、清子という守るべき存在がいたからなのでしょうね」と自らの役どころに思いをはせた。

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松乃は戦後、弁護士の賢一郎と再婚したが、孫の健太郎や家族の前で久蔵の話をしたことはなかったという設定についても、終戦以降の混乱期に女ひとりで娘を育てていた自分に寄り添ってくれた賢一郎に対する愛情があったればこその行動と理解することができる。井上も、「賢一郎を愛していたというのは大前提」としながら、「決して言葉にこそしなかったけれど、久蔵のことは死ぬまで忘れることのなかった存在だったと感じました。生きていくのに大変なこともたくさんあったはずですが、自分が生きる理由……、生きねばと思えた大事な存在だったのでしょうね」と、普段以上に言葉を選びながら丁寧に話した。

夫役の岡田とのシーンは、茨城のワープステーションの一部を宮部邸に飾り変え、2日間かけて撮影された。空母「赤城」が横浜に入港した際、一時帰宅した久蔵とつかの間の家族団らんのひと時を過ごす。このシーンは、原作には存在しない。だが、山崎監督が「どうしても3人が家族である姿を見せたくて入れました。このシーンをどう組み込むかは、脚本段階で相当試行錯誤した」と強い思い入れを抱いたように、あるのとないのとでは作品全体の印象が全く変わってくる重要な場面だ。

井上は、岡田の“座長”としての立ち居振る舞いについて「気遣いをとてもされるし、芯をちゃんと持たれた頭のいい方。求められていることに対し柔軟に対応しつつ、役としての『こうあるべきだ』というものも持っている方だと思います」と全幅の信頼を寄せる。再び戦地に赴く久蔵が口にした「必ず帰ってきます」という言葉は、信じて待ち続けた松乃を演じるうえで、井上にも強いインパクトを与えたようだ。「『死んでも僕は戻ってきます』という最後に残した言葉の意味を、松乃なりに時間をかけて考えていたように今は感じています」。

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日本人である以上、家系をさかのぼっていけば必ずといって良いほど誰かしらの記憶に太平洋戦争の傷跡は刻み込まれているはずだ。井上にとっても例外ではなく、「亡くなったおじいちゃんはあまり語ってはくれませんでしたね。母から祖父が海軍にいたことなどを聞いたことがあるくらいでしょうか」と述懐。そして「私が小学生のころ、おじいちゃんから体の中に撃たれた弾が残っていて、悲しげではないけれど、『ここにね、弾があるんだ』って聞かされて『怖い』と思ったことがありました。多くを語りはしなかったけれど、忘れられないものが体の中に入っていたのかなと、もっと聞いておけばよかったと、今になって思うことはありますね。私たちは戦争経験者がいる時代に生きてきたけれど、戦争を知らない人だけの世の中になると、どうなるんだろう……と考えてしまうことがあります」と真摯な眼差(まなざ)しで語った。

年明け早々に27歳の誕生日を迎える14年には、大仕事が待ち構えている。15(平成27)年放送のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」に主演することが決まり、8月から始まる撮影で吉田松陰の妹・文(ふみ)に息吹を注ぎ込むことになる。不安はもちろんあるだろうが、今年身をもって体験したひとつひとつの出来事が、井上の糧となるはずだ。

「自分の弱さと向き合った1年だったという気がしています。今年は、自分の知らない世界、経験したことのない世界を目の当たりにしたとき、臆病になってしまうという自分の弱さを知ることができました。来年は、たとえ緊張して怖気づくことがあっても、それに挑戦するだけのエネルギーを今年はもらえました。だから、どんな局面でも怖がらず、果敢にその世界を見ていきたいと思っています」。幕末の動乱期を生き抜いた女傑を演じきったとき、現在の井上が想像すらしない新たなステージが用意されているであろうことは間違いない。

インタビュー2 ~三浦春馬、自らのルーツ探しで芽生えた大いなる自信
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