劇場公開日 2013年11月29日

「虚しい真実」キャプテン・フィリップス シュナイダーさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0虚しい真実

2013年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

興奮

これは本当に凄い映画でしたね・・・。
面白いとか楽しいではなく、ただただ凄い・・・そしてやるせないとしか言い様が無い映画でした。
それと、とにかく全編に渡って張り巡らされた緊張感が半端じゃなくて、見終わってドッと疲れが出てしまいましたよ。

ポール・グリーングラス監督作だったので、単純に勧善懲悪であったりアメリカ万歳を描いた作品ではないだろうなと思ってはいましたが、まさかここまでリアルに描かれた作品だったとは・・・いやはや参りました。

これは変に外野の描写を入れなかったからこそ、よりリアルを感じれたのでしょうね。
貨物船をソマリアの海賊が襲い、そこで人質に取られた船長を苦難の末に救助する・・・そこだけに固執したからこそ、とにかく集中してコトの成り行きを見守ることが出来たのでしょう。
しかもエンタメ的な演出をしなくとも、救出される側だけでなくソマリアの海賊側にも感情移入できるよう作ってしまうのですから、これは本当にお見事としか言い様がなかったですね。

それにしても、なぜ彼らは海賊にならなければいけなかったのか・・・それを考えてしまうと、胸が締め付けられる思いで一杯になってしまいますね。
もし彼らが平穏に漁業を営める環境にあったなら、こうはなって無かった訳ですから・・・。
経済支援だけが善じゃない、そんなことをこの映画を見て深く考えさせられてしまいました。

トム・ハンクス(フィリップス船長)・・・アクション映画に出てくるような船長ではなく、ただただ一般人な船長でしたが、でも間違いなく頼りがいのある船長でしたよね。
まあ何かしでかそうとする度に、相当ヒヤヒヤとさせられはしましたが(苦笑)
ハンクスはこう言う微妙なラインを演じるのが本当にうまい!
特にラストの演技は本当に秀逸でしたね。

キャサリン・キーナー(フィリップスの奥さん)・・・登場シーンは序盤だけでしたが、ほんの少しの描写だけでこの夫婦のバックボーンが想像できてしまう辺りは、さすがの存在感でした。

マイケル・チャーナス(シェーン)・・・フィリップス船長の右腕的存在として、なかなかいい味出してましたね。
特に調理場でのシーンは、いい感じに盛り上げてくれました。

ソマリア海賊の4人(ムセ、ビラル、ナジェ・エルミ)・・・アメリカ映画にありがちなテロリスト=エイリアンのような描き方ではなく、ちゃんと皆一人の人間として描かれていたところに物凄く好感が持てました。
勿論彼らのしでかしたことは褒められたことではないし、間違いなく罪は罪なのですが、彼らの人生模様が本当に切なくて切なくて・・・。
特にリーダー格の男(中日のネルソン似の男)が夢を語ったところと、まだ少年の男がフィリップスに気遣いを見せた部分が、何故かとても印象に残りました。

普通の人質救出物は、最後物凄く爽快感を感じたりするものなんですが、この映画は虚しさ溢れる感情しか残りませんでした。
この苦味こそが真実・・・と言う訳なんでしょうかね。
こんなことが起こらない世の中を望みたいものですが・・・何か最良の策は無いものなんでしょうか・・・。

シュナイダー