「タランティーノとレオ様のチャレンジに卒倒しかける。」ジャンゴ 繋がれざる者 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
タランティーノとレオ様のチャレンジに卒倒しかける。
「私が言おうとしてるのは、この映画が私の先祖に対して失礼だということだ。これは私の意見で、誰かを代表しているわけではない。アメリカの奴隷制はセルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンではない。ホロコーストだ。私の先祖は奴隷だ。アフリカから盗まれた。彼らに敬意を払う」by スパイク・リー
久々に、タランティーノ作品ですんごく、すんごく、すんごく面白いと思いました。
そしてジャンゴの戦いが、黒人差別をなくすでも、奴隷解放でもなく、ただ愛する奥さんの為であるということが、一番痺れるポイントでした。
本作は人種差別を描く為に、奴隷と極悪白人農場主って設定にした訳ではないんでしょう。ただ虐げられた者が、復讐の為に極悪人バンバン撃ち殺す為に、こんな設定なのではないかとさえ思えます。
その為、史実と違う描写もあり、その点をスパイキーは許せないのだと思います。ですが、1980年代後半~1990年代にハリウッドで作られた、史実に則って(?)はいるが、「DMD」とか「MB」等の、なんちゃってな人種差別映画より断然良いと思います。
そりゃ、タランティーノなので、奴隷の背中を鞭で叩くであったり、血しぶき、肉片が飛び散る銃撃戦であったり、奴隷を犬に喰わせるであったり、灼熱地獄といって、逃亡した奴隷を、なんか鉄製のお墓みたいなところに入れて炎天下放置するとか、(無駄に)残虐なシーンはあります。
けれどそれを補う会話の面白さや、役者達の演技の魅力があります。本作2時間45分。全く、飽きさせません。
特に、ディカプリオ。「ギルバート・グレイプ」から11年、改めて惚れ直しました。ディカプリオ演じる、何故かフランスかぶれで、異常なシスコンの農場主:ムッシュ・キャンディは、「ゲス野郎」です。黒人同士をどちらかが死ぬまで戦わせる「マンディンゴ」を行っている、奴隷達の独裁者。
あの登場シーン。振り返ってニヤリと笑い、鼻から煙草の煙を出す顔!やばい……、一瞬で極悪人だと思わせる。あまりに素敵過ぎて、卒倒しかけました。
印象的なシーンがあります。
目の前に、ずっとキャンディ家に仕えいた黒人奴隷の頭蓋骨を置いて、 キャンディが言います。 なんで黒人達は、白人を殺さないんだ?と。
「この(頭蓋骨の)男は50年間キャンディ家に仕え、ポーチに座る親父の髭を週3日剃っていた」
50年間もカミソリを親父の首に当ててるんだから、簡単に殺せただろう? と。何故殺して、逃げないんだ?そこで、奴隷達の隷属性について語ります。この部分、なかなか白人監督作品ではお目にかかれない、切り口だと思います。チャレンジャー、タランティーノ。
シュルツがジャンゴの奥さんを買い受けます。するとキャンディが、シュルツに握手を迫る。シュルツの脳裏には、犬に食われた奴隷の姿が蘇り、握手できません。そして怒りにまかせて、仕込み拳銃でキャンディを撃ち殺します。
「ジャンゴ、すまない」
振り返って、ジャンゴに謝った瞬間に撃たれて即死です。制御できない自分の怒りに負けてしまったことを、謝罪した訳なんですが。その去り方が、また格好良すぎる。
そして、ここからが本作の興味深いところですよ。極悪人キャンディが死んだ後、本当の悪人が分かります。この農園の影の支配者。奴隷頭:スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)です。スティーブンは黒人でありながら、白人に擦り寄り奴隷達を支配し、またキャンディですらコントロールしている。ここ、奴隷達が全て無垢で弱かった訳ではなく、悪が存在したということもちゃんと描いている。白人監督では、チャレンジだと思います。
また、初老のスティーブンを演じる、サミュエル・L・ジャクソンが凄い。巧い。南部にいるおじいさんって、あんな感じで喋りますよ。懐かしくなります。
但し、諸々気を遣ったのか、キャンディ(白人)を殺すのはシュルツ(白人)だし、ステーブン(黒人)を殺すのはジャンゴ(黒人)となっております。
本作は勿論、「続・荒野の用心棒(全然、続編じゃないよね?)』 へのオマージュでもあります。「続・荒野の用心棒」でジャンゴ役を演じたフランコ・ネロが、ある役で登場しています。その台詞が、また洒落てるんです。あ、言いませんよ!どうぞ、ご自身でご確認を(笑)
PS タランティーノ&ドン・ジョンソンも出てるよ。あと、2PACとJB2人の亡くなってからのコラボが、終盤の銃撃戦で流れます。かっけー!