劇場公開日 2012年10月27日

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「パズルを解いていくように観客をじらしながらワンシーンごとにヒントを小出ししていく、キーアイテムの争奪戦が見物です。」シャドー・チェイサー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0パズルを解いていくように観客をじらしながらワンシーンごとにヒントを小出ししていく、キーアイテムの争奪戦が見物です。

2012年10月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 文字通り、クライムサスペンスに定番と言える、キーアイテムの争奪戦が描かれる作品。どんな凡庸なシナリオでもキーアイテムの争奪が加われば、謎のアイテムが敵味方に奪い奪われるハラハラドキドキの映像となり、それになりに盛り上がるものです。そういう既視感はあるものの、他の作品と違う点として、主人公がキーアイテムの争奪戦の完全な部外者であり、巻き込まれるということと。
 予想外のところから巻き込まれて、キーアイテムの争奪戦の当事者になってしまうミステリアスな展開は、『その男ヴァン・ダム』でも同様な手腕を発揮したフランス人監督、メクリ監督ならではの演出でしょう。
 ラストの壮絶なカーチェイスと相まってなかなか楽しませてくれました。けれども★一つ落としたのは、ブルース・ウィルスへの不満です。冒頭で久々に警官とのアクションを披露してくれて、今回は老体にむち打ってやってくれるのかと思いきや、早々に暗殺されてスクリーンからいなくなってしまいます。最近の彼は、殆どアクションをやりません。『エクスペンダブルズ2』だって、マシンガンを吹っ飛ばすだけ。58歳で肉弾戦を披露したシルベスター・スタローンの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと思います。ただ役者としてギャラを稼ぐだけなら、引退宣言を出してからがいいのではないかと思うくらいですね。

 脱線しましたが、冒頭、主人公のショーは久々に家族と再会して、スペインの海岸でヨットクルージングを楽しんでいました。ショーの経営する会社が倒産とか、父親マーティンとの関係が長年うまく行っていないところなど、少し前振りが冗長に語られるところは退屈でした。
 しかし、そんな家族との気まずさから、街へ気晴らしに買い物に出たところから、俄然面白くなってきます。なんとヨットに戻ってみると誰もいません。街へ戻って、警察に向かおうとすると、今度は警官殺しの容疑で、警官が逮捕しようと向かってくるではありませんか。観客もショーも何が起こったのか、全く謎、聖天の霹靂とは、まさにこのことです。
 そんな窮地を救ったのが、突然現れた父親のマーティンでした。彼は大使館勤務は表向きで、実はCIAの工作員であることを告白。しかし、家族の誘拐の理由については、機密事項であることを理由に全く説明しようとしません。そんなショーを誘って、協力を得るためにマーティンは、CIAの同僚ジーン・キャラックと会うもののその直後に、正体不明の人物から狙撃されて、マーティンは死んでしまいます。
 後に残されたショーにとって、唯一の手かがりは、父が残した携帯電話と、ジーンとのやり取りで聞こえてきた“ブリーフケースを奪われた連中だ。24時間以内に返さないと家族が殺される”という会話でした。
 一度は大使館に頼ろうとするショーでしたが、反対に警官殺しの容疑を掛けられて拘束されそうになります。大使館を何とか脱出しても、外では地元警察がショー逮捕の大捜査網で追いかけてきて、さらにはマーティンを殺害した犯人からも狙撃を受けられます。そして、家族を誘拐した一味もショーを拉致しようと襲ってくるのでした。
 いきなりたたみ掛けるように何を信じていいのか解らないカオスに陥ってしまうところが、本作の序盤の見どころでしょう。

 けれどもショーは、挫けません。マーティンが残した履歴を頼りに、真相を知る人物に辿りつくも、そこにはジーンの手先が先回りして襲撃してきます。まるで、女ターミネイターのように、ジーンはショーの行く先々に表れて、ブリーフケースの秘密を知る人物とショーの抹殺を図ろうとするのでした。
 一方、家族を誘拐した犯人からもマーティンの携帯に脅しの電話が入ります。“ブリーフケースか、家族の命のどちらかだ。午後6時に太陽の門に来い”と全く聞き耳持たずにまくし立てます。そう言われても、なんのこっちゃ全然解らないのにね。どんな事情か、キーアイテムのネタバレしていく過程は、パズルを解いていくように観客をじらしながらワンシーンごとにヒントを小出ししていくので、次第にストーリーに釘付けとなりました。その後家族を誘拐した一味と遭遇して、やっと一味がモサドであり、ジーンのチームがモサドの情報機密をネコハバして、国際テロ組織に売り飛ばそうとしたことが事件のあらましだったようです。それを裏切って、モサドに返そうとしたので、マーティンは消されたのでした。そこで疑問なのは、全てを知っているモサドはなんでマーティンの家族を誘拐するという手の込んだことをするのかということです。直接ジーンを確保して、拷問すれば早かったはずなのに(^^ゞ
 それでもモサドは、素人のショーをジーンをおびき出すネタに扱い、家族を帰そうとしません。仕方なく、ショーはジーンから、ブリーフケースを奪うべく、自分の命を狙いに来たジーンを逆に追走するのでした。
 ラストのカーチェイスは、見応えたっぷり、逆走行は当たり前、階段を火花をちらしながら駆け下りたり、手に汗握るシーンの連続です。ジーンを追っていたはずのショーが
逆に切れたジーンに追われたりで、見せ方も趣向に富んでいました。

 本作で、数々のスリリングなアクションシーンを見せ付けたヘンリー・カヴィルは、華もあり、切れもあるので、これからのアクション映画の中心的スターとしてきっと君臨することになるでしょう。重ねていいますが、老兵は静かに去るべし!ですね。

流山の小地蔵