劇場公開日 2013年4月20日

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ペタル ダンス : インタビュー

2013年4月17日更新
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石川寛監督、7年ぶり再タッグを組んだ宮崎あおいの変化とは?

光に溶けるような淡い世界。ふとした仕草や視線が紡ぐ物語。石川寛監督の映像は、独特の繊細な描写で見る者を魅了してきた。約7年ぶりとなる最新作「ペタル ダンス」では、前作「好きだ、」(2006)に主演した宮崎あおいと再タッグを組み、揺れ動く女性の心情を映し出す。(取材・文・写真/編集部)

石川監督の作品づくりは、「自分の撮りたい映画」について思いついたことをノートに書き留めるところから始まる。今回は、「明るさを深める」というキーワードがきっかけとなり、「複数の人間の心の揺れを描きたい」という構想が、偶然出合った花びらを意味する「ペタル」という言葉と合致したことから動き出す。「心が揺れる人たちに集まってほしかったんですよね。でも、集まる場所がなかなか見つからなくて。そこで『誰かに会いに行く、旅する映画なんだ』と思いついたんです」。そして登場人物、物語は大きく方向を変え、ジンコ、原木、素子、ミキという4人の女性による“旅の物語”へと変化した。

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石川監督は第1作「tokyo.sora」(02)、「好きだ、」と女性の視点を描き続けてきた。今作は、20代後半と20歳の女性を見つめることで、男女の恋愛関係ではなく同性間の友情にフォーカスしている。「会わなくなった友だちって、たくさんいるなあと思ったんですよ。なんで会わなくなったんだろうなって疑問に思って、会わなくなったことに対して後ろめたい気持ちもあったりして。これは、女の人にも重ね合わせられる感情かなと思ったんです。僕は、自分にもある感情に重ね合わせたいんです」

そんな思いから生み出されたキャラクターには、自身が投影されているのかと思いきや、俳優が持つ色が強くにじみ出ている。「僕の撮影の仕方は少し変わっていると思います。とにかく、それぞれの感じ方を最大限に出してほしいんです。それぞれがいろんな解釈、感じ方でその役を生きようとしてくれるように、手紙を書きいろんな話をする。僕の一面がその人に反射することで、また違う面が見えてくる。変わってもいいんです、自分の書いている言葉が。ただ、そのシーンで描くべき本質は外してほしくない」

撮影を開始する前には準備期間が設けられ、役者はそれぞれが演じるシーンに向け役どころと自分をなじませていく。「僕は通常のリハーサルはやりたくなくて、カメラを回しながら撮るべきシーンの前の時間を築いていく。どんなことを言って、どんなことをしたのか、それぞれの記憶に残してもらう。それは、そのまま撮影してもいいんじゃないかというくらい豊かな時間で、感情のやり取りができているんですよね。僕は役者の感受性を一番信じたい」。こうして、各キャラクターが石川監督の思いとともにスクリーンのなかに息づく。

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宮崎をはじめ忽那汐里安藤サクラ吹石一恵の4人は、見事に役どころを形にした。宮崎以外の3人は石川監督と初タッグとなったが、無意識に海に飛び込むという難役に挑んだ吹石を「表面的には穏やかな海でも中は違うかもしれないという感じを重ね合わせたかった。役柄によって深さを変えられる人」と分析。「(忽那は)思った通り感受性が豊かで、ちょっとしたことにも体ではなく心が反応している。安藤さんは、僕の枠を彼女の方から破ってくれて、すごくいいバランスになった。役者としての存在の仕方をどこかで意識しつつ、僕が1番大事にしている『そういう場に立ち会ったらどういうことを思うだろう』っていう思慮深さを感じとってくれました」と信頼を寄せる。

宮崎は映画だけではなく、テレビCMでも共同作業を行ってきた石川組のミューズだ。その存在は今作にも影響を与え、当初想定したキャラクターの年齢が、29歳から撮影当時の宮崎にあわせて20代後半という設定になった。前作では、主人公ユウは宮崎にあてがきしたキャラクターだったため、17歳の女子高生の印象が強かったが、「あおいちゃんが1、2カ月の間にどんどん大人になっている時期があったんです。いつの間にか、ジンコというキャラクターに彼女がギュギュッと合ってきた」と成長を目の当たりにした。

CM、映画と宮崎を見つめてきた石川監督だが、彼女はどのように変化しているのだろうか。「『好きだ、』のときは、まん中の方に芯がしっかりあるのにその周りが柔らかい。感情の揺れ、心情の起伏のようなものから柔らかさが感じられた」。8年半ぶりに長編作品で宮崎を撮影し「年齢を重ね、柔らかさの質が変わり深くなりました。前は芯がよく見える人だったんですが、年輪みたいに柔らかさを何層かまとってきた。都会に生きている女の人は、そういう風に年を重ねるのかもなあと思いましたね」と振り返る。

今回、3本目となる長編映画に取り組んだ石川監督。これまでに多くのCMを手がけてきたからこそ感じる、映画の魅力を聞いてみると「1本目から『生きている人を残せる』ものが映画だと思っています。映画の中に生きている人の生き様のようなものが、劇場で観た人の記憶に残せるかもしれない。そして、映画だとDVDやブルーレイっていう形で、シンプルに手もとにも残せるじゃないですか。中に生きている人が多い映画ほど、僕は好きなんです」

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