劇場公開日 2012年10月6日

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ツナグ : インタビュー

2012年10月4日更新
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松坂桃李と樹木希林が体現した祖母と孫の理想像

ひとつひとつ言葉を選びながら、真摯な受け答えをする松坂桃李。時に脱線しても、自由奔放な言動で周囲を和ませる樹木希林。対極の“いやし系”2人の関係性が、そのまま孫と祖母という役となって「ツナグ」に反映されているようだ。松坂は樹木を絶えずリスペクトし、樹木が慈母のような笑みで応える信頼関係。それが共に演じた、生きている人間と死者を“ツナグ”使者という役をファンタジック、かつ説得力のあるものに醸成していったのだろう。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)

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インタビュー前の写真撮影。世間話をする樹木に松坂が相づちを打って顔を向けるが、そのたびに「はい、カメラ見て」と諭される。「私は保護者だから」という樹木の言葉も納得の光景で、思わず吹き出してしまう。

そんな松坂は、俳優デビューとなった2009年の戦隊ヒーローシリーズ「侍戦隊シンケンジャー」の映画版でシンケンレッド(志葉丈瑠)として“センター”を務めたが、単独での映画主演は初めて。だが、樹木のような心強い存在もあったためか、プレッシャーは感じなかったという。

「主演ということに関しての気負いはなかったです。それより、(主人公の)渋谷歩美としていられるかという不安のほうが大きかった。主演を実感したのは、撮影が終わって公開するまでのプロモーションで、受け取り手側の人たちにこの映画の良さを届ける責任を持たなきゃというところですね」

一方の樹木は、そのプロモーション期間の長さに少しとまどい気味だ。

「宣伝活動で毎日毎日、松坂さんにも(共演者やスタッフら)皆にも会って、撮影の3倍くらい使っているというのが実感。私は主役だと思っていないんですけれど、皆が『やれやれ』と言うから。役者が前もって何か言うのは恥ずかしいもの。あまり重たい役は、やらないほうがいいですね。公開の1カ月も前からやっているなんて、いやあビックリした。松坂さんは大変だよね」

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当然、松坂にとって樹木は大先輩であり、どのようなイメージを持っていたのかが気になった。すると樹木が、「年数だけはね。今までどういう印象をお持ちになっていたんですか?」と質問を代弁してくれた。

松坂「本当に厳しい方というか、ちょっと怖いイメージを持っていたんですよ」
 樹木「本当は怖いの。ただね、怖さを出す暇がなかったのよ、(撮影が)忙しくて」
 松坂「おばあちゃんのアイ子として柔らかい空気感で包み込んでくれたので、本当に心地良かったですし、受け止めてくれたなという感じはあります。樹木さんをはじめ、いろいろな人たちと一緒にお芝居をして、それを共有できたということが僕の中ではとても大きいことでした」

歩美は見習いのツナグとして、さまざまな人々と死者たちの媒介となる。共演者には樹木をはじめ仲代達矢、八千草薫といった日本映画界の歴史を築いてきた顔ぶれがそろう。そのあたりに話を向けようとしたら、再び樹木から「すいません。私は全然築いてないですよ」と謙そんの注釈が入った。

樹木「私の歴史はここ数年ですから。テレビでずっとやってきて、くだびれちゃったから映画にすると言ってからの話なんでね。仲代さんは、本当に歴史がある。どっちがいい悪いじゃなくて、スタートが違うから。仲代さんは映画の黄金時代を、そうそうたる俳優、監督と一緒に歩いてきた人だから、すごく貴重な存在なんです」
 松坂「緊張はしましたね。樹木さんと仲代さんの間に僕がいるのが不思議というか、こんな機会ないだろうということで、現場に入る前は緊張しました。でも、現場に入ってからは硬さみたいなものはなかったです。やはり、お2人に……」
 樹木「普通にセリフを言えばいいんだもんね」
 松坂「いや、そういうことではないですよ(笑)」

話の腰を折られてしまった感もあるが、樹木が松坂を認めている裏返しとも取れる。実際、若手との共演について聞くと、かなり高い評価をしていることがうかがえた。

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「今の若い人は、ファッションもメイクも一緒だからだと思うけれど、あまり見分けがつかない。男も女も。そういう意味では、(松坂さんは)いい意味で色がないすくっとした無垢(むく)な存在。これからうまく花開いていけば、いろいろな色にその都度その都度、変化していくなあと思いましたね」

続けての発言がさらに興味深い。歩美は高校生という設定だったため、おもむろに作品資料に目を落とし、事故死する女子高生・御園(大野いと)の母親を演じた浅田美代子のページを指差した。

「この子(歩美)が16か17歳くらいでしょ。この子と同じくらいの時の浅田美代子と初めて会っているわけですよ。もうピチピチしていて。ああ、今ではお母さん役をやるようになったんだと思いました」

これには松坂のみならず、周りにいた皆が大爆笑。だが、樹木の歴史を語るうえで欠かせないファクターだ。

その樹木演じるアイ子の薫陶を受けて3組の再会を仲介し、両親の死とも向き合いながら成長していく歩美。平川雄一朗監督からは松坂に対し、かなり詳細な指示が出されていたようだ。

「頭で考えるのではなくて、その場で感じたことを大事にしてほしいということを監督が仰っていたので、それをベースに参加しました。本当にミリ単位で見てくれていて、粘り強い。監督と過ごす時間が一番長かったのは、主演の特権だと思いましたね」

今を生きる人々、亡くなってしまった人々双方の思いを受け止めるという役どころに挑んだことで、命に関する考え方にも変化が起きた。そして、完成した作品を見た時に出演した喜びがふつふつとわき上がってきたという。

「原作を読んで、死というものは当たり前ですけれど絶対にやってくるものだと再認識しました。僕もまだまだ生きているのが当たり前だろうと思っていたのが、事故や病気や寿命でいつ別れがくるか分からない。そう知ってから家族と過ごす時間が濃厚になったんです。そして、エンドロールで自分の名前が上がってきたときは、『あ~、自分、出た』という喜びがすごくありました。この作品に自分が関われたことの証(あかし)が目の前に現れたことがうれしかったですね」

「私はちょっと長いなって思いました」という樹木の感想もご愛きょうで書き添えておこう。

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それにしても、昨年後半あたりからの松坂の活躍ぶりには目を見張るものがある。「僕たちは世界を変えることができない。」「アントキノイノチ」「麒麟の翼 劇場版・新参者」と出演作が相次ぎ、9月29日まで放送されていたNHK朝の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」で知名度もグンとアップしたことだろう。現在も主要キャストに名を連ねた「王様とボク」が公開中で、12月8日には「今日、恋をはじめます」が控える。まさに樹木の言う、いろいろな色を見せ成長し続けている。

「充実感はありますね。人と過ごす時間が、すごく濃厚だったと思います。成長は自分で実感するものではなく、相手が感じ取ることだと思いますし、自分の中では経験を積むことが大事だと思っています」

決しておごることなく、地に足をつけて現状をとらえ将来を見据える姿勢に好感がもてる。「ツナグ」の公開が迫り、「胸が高まりますが、作品がお客さんのものになっていくので寂しさも少しあります」と正直な思いを吐露した。

ちなみに、樹木は人の命の重みについて「あらためては感じない。常に感じているから大丈夫」とのたまい、またしても爆笑を引き起こした。そんな“おばあちゃん”の姿を、常に優しいまな差しで見つめ続けていた松坂の笑顔が強く印象に残り、祖母と孫の理想像が浮かび上がってきた。

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