「やがて親になる。」そして父になる ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
やがて親になる。
実際に起こった取り違え事件を原案に描かれた物語である。
「血の繋がり」か「過ごした時間」かという普遍的なテーマを
メインにしているが、これはなかなか選べるものではない。
大方は必然と(将来を考えて)血の繋がりを選ぶそうだが、
離れ離れになった他人の子を我が子と重ねて苦しまないか。
親なら何度考えても、相応しい答えが見つからない。
6年も(しかも生まれてからの)過ごせば愛情は計りしれない。
そして貴方の実子だと言われればもちろん愛情が湧いてくる。
元々選びようのない残酷な仕打ちを迫られる物語だ。
物語は淡々と展開する。ある日突然、取り違えを宣告された
夫婦二組は、事あるごとに場を設けては親子同士で対面をする。
いかにもエリート家の息子・慶多と、電気屋で育った息子・琉晴。
主人公の良多は自分と似ていない優しい性格の慶多が歯がゆい。
わんぱくで元気一杯の琉晴には手を焼いて逃げられてしまう。
子供が自分の思い通りに成長するなんてそんなことあるかよ、と
つい笑ってしまうのだが、母親同士のみどりとゆかりは納得の
いかない取り違えに憤慨しつつも、子供に精一杯の愛情を尽くす。
「愛せますよ、もちろん。」というゆかりの言葉に嘘はない。
母親は(というか女は)強いな、やっぱり!と思わずにいられない。
あたりまえじゃない、どっちも自分の可愛い子供なんだから。
(リリーが慶多の入学式をわざわざビデオ撮りするのも納得)
監督は独身の二人を父親に据えて、じっくりと彼らを追っている。
福山雅治はエリートというより神経過敏で小煩い父親という感じ。
彼の実際の性格がそうらしいので(爆)上手く出ていたなぁと思う。
片やリリーにはいかにもいい加減が似合う。子供相手にずいぶんと
振り回されて遊ばれたそうだ。金をケチっても時間はケチらない。
子供にとって居心地のいい家って、あんなタイプの家だったなーと、
今でも思うのだ。まず良多のような家に子供は遊びにいかない。
どちらの家にもリアルに良いところと悪いところがある。
子供にとってどちらがいいかなど、今の時点で言えるものではない。
結局15年以上(森林が育つのにも人格が育つのにも)かかることだ。
カンヌで審査員賞を受賞したとあって劇場は超満員。
ハンカチを持ったオバ様方がしかし、「泣けなかったわねぇ~!」と
文句を言いながら出ていく姿が、妙に気の毒で笑ってしまった。
是枝作品を観慣れていると今回のも観易いが、感動号泣を期待して
観てしまうと、エ?これで終わり?と肩透かしを食らうのかも。
しかし監督は、随所で非常に上手い演出をしている。
子供の自然な演技。いかにも良い子の慶多と、腕白坊主の琉晴。
どんなに可愛がられても「早くお家に帰りたい。」と訴える琉晴と、
良多から「これはミッションだ。」と告げられ、我儘を言わない慶多。
良多が、家出をした琉晴に昔自分も同じ様に家出したことを重ね、
慶多が残したカメラに「大好きなパパ」が映されているのに泣く場面。
ストローを噛み潰す行為を、同じようにリリーと琉晴が行うシーン。
実父が「血が大事だ」と言ったそのままを良多も拘ってしまうシーン。
親子だから似てしまう部分があり、親子でもまったく違う部分がある。
シーン毎の何気ない挿入の繰り返しが「絆」を多角度から描いている。
そして素の演技を醸す息子たちから、大人の俳優たちが自らの表情を
どんどん引き出されているのだ。これは観ていてとても面白かった。
ハリウッドでリメイクも決定したそうだが、どう作るのか楽しみだ。
(何はどうあれ子供の幸せを考える親と、親から学びとっていく子供)