「もっと「らしさ」へのこだわりが欲しい」アフター・アース tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
もっと「らしさ」へのこだわりが欲しい
予告編をみて期待感が高まっていたが、それは見事に裏切られた。何より目立つのは1000年後の未来を舞台にしているくせに、「未来世界らしさ」がこれっぽっちもないことだ。
まずサイファが出発前に片足を失ったかっての部下と会うのだが、1000年後であれば当然再生手術か最低でも自律可動型義足くらいは装着していて当然のはずなのに、単に移動用台車に乗ったまま。このシーンをみただけで「この作品のスタッフは1000年後の未来社会のありようについて、ちゃんとしたイメージを持っていないのではないか」と危惧したが、果たしてその後にも無神経なシーンが目白押しだった。例を挙げれば、
1.訓練用宇宙船の座席が、現在のエコノミーよりもひどく、ハーネスも あまりに安っぽい。アーサーを収容したカプセルの固定方法もあまりに簡易すぎて噴飯もの。
2.隕石嵐を前にして訳の分からない「重力子」や「質量増大」などをもちだして、バリヤーもないのにそのまま突入、当然ながら船体に損傷(大穴)を受けた挙句、到着先の確認もとれないままワープを敢行。地球近辺にワープアウトする。
3.大穴があいた宇宙船の中で船外宇宙服も着ず、これまたあまりに安っぽい酸素マスクをつけただけで大気圏突入。宇宙船は大破するが主人公キタイは五体無事なまま。
4.大破した宇宙船も何やら安っぽい内装材が散らばり、ビニールが垂れ下がっているだけで、高度な技術の塊が破損したようなイメージは全然感じられない。
5.吸血虫の毒に冒されたキタイは救急セットの注射をするが、それがなんと針式の注射器(大昔に作られた「宇宙大作戦」でも既に圧力注入式が使われていたのに・・・)。
6.アーサーは恐怖心を持った人間のフェロモン(匂い)を感知して襲ってくるため、恐怖心を克服したレンジャーだけが唯一の対抗手段というが、そんなもの密閉された装甲戦闘服を装備すればいいだけで、最初はともかくいつまでもわざわざ生身で直接相手と切り合うような戦いをする必要はない。
などなどがある。
原案が悪いのか、脚本がダメなのか、監督がアホなのか、美術が無知なのか分からないが、一体この作品のスタッフはSFというものをどう考えているのか。
この作品のテーマが「有能な父親とトラウマを持つ息子との確執と和解」および「試練を通しての少年の成長」であることは分かるが、こんな未来世界を設定した以上最低限の「らしさ」は必要であろう。
「1000年後の地球は人間を殺すために進化した」というが、そんな描写もまったくない。あるのは単に人間と言う身勝手な暴君がいなくなった後、弱肉強食の自然に返っただけの地球の姿である。猿も吸血虫も4歩足も単に今と変わらず生存本能で襲ってくるにすぎず、鳥(大鷲)などは雛のエサにさらって来たと思ったら、一転凍えるキタイを救ってくれるという説明なしのご都合主義。
とにかくこの作品はSFとしては「人類が先住種族の住む惑星を侵略した」とか「人類が去って1000年後の地球はどう人間に敵対してくるのか」などの魅力的な設定があるのに、それをストーリー展開に全く生かし切れていない。
私は「ベストキッド」を観て以来のジェイデン・スミスのファンなので、目一杯甘い点をつけたが、それでもこれが限界である。