「求めても求めても手に入れられないもの」ザ・マスター arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)
求めても求めても手に入れられないもの
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PTAは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で一皮剥けたと言われていて、確かに私もおあの作品で監督としての階段をひとつ上がったという印象は持ったのだが、今作を観て思ったのは、PTAはデビュー作から一貫して父親と息子(あるいは親子に代わるような親密な関係)や家族(あるいは疑似家族)について描いてきたということ。それはずっと変わっていないんだなということだった。
今作の主人公は、崩壊した家庭に育ち、第二次大戦に出征、更に過酷な戦場でトラウマを抱えたフレディ。彼には故郷に「必ず戻る」と約束した恋人がいたが、戦時中から酒に溺れ無事帰国しても彼女の元に戻りたいと思いながらも、戻ることが出来ず、職を転々とする。
そんな彼が出会ったのが新興宗教“ザ・コーズ”の教祖であるマスターことランカスターだった。居場所を失っていたフレディは初めて自分とその過去をさら出すことの出来たマスターに信頼を寄せ、疑似家族のような“ザ・コーズ”の中に自分の居場所を見つけたかに思えたが…。
フレディとランカスターとの間に親子にも似た情が通ったことは確か。しかし、フレディはランカスターを始め教団の教義ややり方への違和感を捨て去ることが出来ない。
実の父親をペテン師扱いするランカスターの息子やマスターの新作を酷評する仲間にフレディが食ってかかるのも、彼自身がランカスターを信じきることが出来ないことへの苛立ちからだ。
ラスト近く、イギリスのマスターを訪ねたフレディがやつれているのは、誰も自分を救えない、自分でさえも救えないという諦めの現れだったような気がする。
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