「支配と依存。」ザ・マスター ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
支配と依存。
その宗教団体の名前を聞くと、あの大スターの顔が浮かんで
仕方ないのだけれど、日本でも数ある宗教団体に於いて、
一人間が何を信じてどう生きようがそれはその人の自由である。
但しそれが社会を恐怖に陥れたり、一人間を家族から完全離反
させる力を持っているなんて明らかにおかしい。世間が囃したて、
その団体が窮地に陥りついに反社会活動を起こすというケースも
あったが、どうして人間はこういうシステムに弱いんだろう。
主人公フレディの性格…とても尋常とは思えない行動を起こす
彼の生活には、捉えようのない破壊性が見てとれるが、それを
とある誰かの力で違う方向へ向かわせることができるかという、
いわば実験映画のような感じがした。こういうドラマを続けて
観せられる苦痛の幅で、自分自身の内面が明らかになってくる。
自分を助けた人間との関係は、一生主従関係として成り立つのか。
というより、成り立たせないといけないものなのだろうか。
従う人間と従わせる人間各々の性格にも因るが、従わせる人間も
従う人間も、かなりの不安要素に駆られている気がしてならない。
離れ離れになるのが怖い。お互い依存し合っている関係に見える。
本来の自分がどんな人間か(そんなこと完璧に判りはしないけど)
今まで生きてきた自分とその生き方に理解・納得・反省・前進できる
自分である場合、あまり他人の支配にすがろうとは思わないもの。
この宗教の内情を暴く話なのかと思いきや、暴くのは人間の内面。
終盤でバイクに跨り、マスターの元から疾走する主人公は、やっと
自身の立ち位置を自ら見出そうという意欲に駆られた象徴となり、
追ってきたマスターとのやりとりで、彼の(浅はかながらも)自立が
齎される。どんな運命も受け容れることで道は拓かれていくのだ。
このマスター自身も裏では妻に支配されており、彼に心ない偏見
「催眠術じゃないのか?」をぶつける一般人の中傷に傷つきもする。
時を同じくして依存という意味では、
マスターを演じたPSホフマンが薬物依存で突然この世を去った。
今作では彼の依存する演技が完璧だったこともあって衝撃が強い。
(自分を支配できるのは自分、他人がしてくれるのはアドバイス。)