「難解!でも、一見の価値はある」ザ・マスター 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
難解!でも、一見の価値はある
「ブギーナイツ」「マグノリア」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」…。
監督作に外れ無しのポール・トーマス・アンダーソン。
前作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は圧倒的な作品だったが、今回もまた一筋縄ではいかない。
第二次大戦から帰還後、アルコール依存で自暴自棄な生活を送るフレディ。そんな時、新興宗教団体“ザ・コーズ”のマスター、ランカスターと出会い、彼に傾倒していく…。
トム・クルーズが熱心な信奉者で知られる実在の新興宗教団体“サイエントロジー”をモデルにした事でも物議を起こした。
ハッキリ言って、非常に難解。自分の頭では、映画が訴えるテーマの半分も理解出来なかっただろう。元々、宗教に傾倒する意味すら分からない。別に宗教の全てを非難する気は無いが。
しかし、宗教云々とかではなくとも、二人の男のドラマに焦点を絞って見る事は出来る。
迷える男と救いの手を差し伸べる男。
「君を好きなのは私だけだ」
宗教の教祖の言葉としては、これほど巧みなものは無いだろう。
フレディはただ宗教にすがりたかったという訳ではあるまい。彼が惹かれたのは、全てを受け入れてくれる存在。
それはランカスターも然り。フレディを言葉巧みに宗教に引きずり込もうとしていた訳ではない。彼は彼なりにフレディを救おうとしていた。
愛憎とも絆とも言える関係で結ばれていく。
迷える心を救えるのは、宗教か、絆か。
これが、演技の極地。
ホアキン・フェニックスの、終始緊張感みなぎる演技は凄まじい。皮肉にも本作へ出演前にプライベートで奇行が目立ち、役柄と素顔が被って見えて仕方なかった。
“動”のフェニックスに対し、“静”のフィリップ・シーモア・ホフマン。その巧みな演技は文句のつけようが無い。
この二人が向かい合う“プロセシング”のシーンは本作最大の見所。
エイミー・アダムスもこういう作品でこそ演技が光る。(フレディの視点で女性が全員全裸のあるシーンで、エイミーのおばちゃん体型はある意味衝撃的!)
ジョニー・グリーンウッドの音楽は印象的。
65ミリフィルムによる重厚ながらくっきりとした映像は美しい。
先にも述べた通り、難解な映画である。好き嫌い物の見事に分かれるだろう。
映画の中身について知ったような事は言えない。それでも、演出、演技、映像、音楽…映画の力は感じられる。
見て損は無い映画だと思う。