「ヒプノセラピーで過去世に行かず、来世を見たら救われたかも知れない?」ザ・マスター Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒプノセラピーで過去世に行かず、来世を見たら救われたかも知れない?
ファーストシーン、何処までもピュアな輝きを放つ深いブルーの海。
このブルースカイ・ブルーオーシャンは、私達を一体何処へと誘うのだろうか?と思ってスクリーンを見詰めていると、離島に従軍しているホアキンフェニックス演じるフレディ・クエルの登場。フレディは軍人と言うより、密造酒の鉄人・そして女狂い。
この束の間のシーンだけで、フレディがタダ者では無く、彼の異常性が一目で解る。
巧い撮影だ。
そしてこの映画全体に言える事だが、映像が、凄くブライトで、自然は何処までも抜けるように美しく、街並みも、その他のセットもとても、美しい映像で描かれていく。
それに対比する様に、主人公のフレディと彼のマスターとなるフィリップ・シーモア・ホフマン演じるランカスター・ドッドの心の闇の深さと、その大きさ、そしてその恐さが、
この美しい映像の中に、2人を立たせると、そこは一瞬にしてシェイクスピアの悲劇でも観ているような錯覚に陥りそうな、似た者同志の2人の対決の場になる。
基本的には、暴力を見方に付け、総ての解決方法を暴力に頼っているフレディ。
それに対して、心を操り、言葉を武器に物事を進めていくランカスター。
まるで、その生き様は、水と油の如く正反対だ。しかし、その2人の心に共通する闇。
「ザ・コーズ」と言う新興宗教の教義の核心部分、真実の教えについてはランカスター本人以外には、本当に理解している者はいない。
そして彼の家族である、妻も、子供達も、誰も彼を理解しようとはしない。
真実からは、目を反らして生きている。恐れられ、妻に利用される事はあっても、愛されてはいないのだ。その事自体をランカスター自身は知っている。
そしてまた、フレディも帰還兵のPTSDを患っているが故の異常なまでの、突然の怒りなどの感情の波に翻弄され、自己のコントロールを完全に喪失している。その結果誰にも受け入れられない深い孤独が彼の心を完全に支配する。
その完全なる孤独の深い闇を抱え込んでいるこの、フレディとランカスターの2人は磁石の様に互いに引き合う。
心の中は、切り開いて覗く事も出来なければ、見た目にはそう簡単に表に表現する事が出来ない。
しかし、ランカスターは心の専門家である。人の心の中の闇については、プロなのだ。
直ぐに、この深海をも飲み込んでしまう程に暗く留まる処も無い心の闇をフレディの中に観る。そして、彼との共依存ならぬ狂依存関係になる。
ここに、人の哀しさ、孤独が溢れ出される。恐い映画だ。人間の真実を言い当て、観客の前に、大きな口を開けて待ち構えている巨大なサメの様な映画だ。しかし映像は流れる深海の波の様に穏やかで、あくまでも何処までも美しいのだ。
エイミー・アダムスがその実、総てを握っていると言う女性の真実の恐さからも、目が離せないものだ。ラストが、また海だが、何処までもこの恐さが心に残る映画だった。