劇場公開日 2013年8月10日

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「若い世代にこそ見てほしい」少年H 水樹さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5若い世代にこそ見てほしい

2013年9月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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知的

劇場に入って一番驚いたのは平均年齢の高さ。
三連休初めの土曜、しかも映画の日だというのに
客はまばらで、お年寄りばかり。
オン・ザ・ロードのほうがほぼ満席だったため、
こちらも人が多いのかな?っと思っていので、
これはちょっと大丈夫なんだろうか?っと不安に…。

映画自体は戦争ものとしてはかなりライトな印象。
役者たちも戦時中の人間という印象よりは、
平成の人間が戦時中の教育を受けたかのような、
少し妙な違和感が拭えない印象がありました。

主人公の家族は、洋服を作って外国のお客さんと
親しくしていたり、キリスト教徒であったりと、
戦争中であれば、色々な困難に直面することが
わかりきっているため、その辺りの近所の住民や
周りの環境に関しても興味深く鑑賞させてもらいました。

戦争という状況は国民の1人がどんなに抗っても、
その大きな流れを変えることはできない。
周りの人間たちが「大日本帝国万歳!」っと、
政治やマスコミ、教育に流されていく中。
自身の信仰を意固地になって主張する母親や
世の中の不条理に対して困惑する子供に対して
世の中に無暗に逆らうのではなく、その流れをきちんと
自分の目で判断して、本当に守るべきものは何かを考え、
時には大切なものを守るために周りに合わせること。
周りに流されたり、周りのせいにするのではなく、
きちんと自分の言動に責任を持つことを教えます。

戦時の学生教育、思想犯等に対する特高の圧力。
自由に物事を考えることも制限され、
理不尽な暴力に対して訴えることもできず、
「戦争に勝つために」の一言の元に、
自由な思想も生き方も弾圧され続けた時代。
この作品はどちらかというとそういった
時代に対して、どのように自分という
人間性を守り、自己を貫いていくのか。
そういうことを強く何度も訴えかけてきます。

反面、誰もが間違っていると感じていても
目を逸らし、耳を塞ぎ、自分を騙している事に対し、
おかしいじゃないか!っと思わず口に出してしまう
そんなH少年に対して、社会に流されている人々は
世論を盾に容赦のない暴力や弾圧を行おうとしていく。
今の時代には当たり前のように許されている言動が
こんな風に弾圧されていた時代もあった。

劇場で作品を見ながら、自分が同じ状況であれば
どんな風に対処すればいいのだろうか?
どういう風に立ち回るべきなのか。
焼夷弾の雨の中、どうしたら逃げれるのか。
周りの人の考え方、思想、行動それらを見ながら
自分ならどうするか?そんなことを考えながら、
ずっと作品を見ていました。

ネットが普及して自由な発言や思想が飛び交う中、
ネトウヨ、ネトサヨなんて言葉が流行り始め、
原発デモや反韓、マスコミ叩きなんて行為に
熱中している人が多い昨今。
この映画を見て、実際の日本の戦犯は!
日本の戦争に対する思想は~、実際には~
等とがなり立てる情けない人も多いでしょう。
こんなに自由な言動の許された社会の中で、
ネットの知識や周りの声に流されて、
周りの目ばかりを気にして勝ち負けばかり、
そんなものを気にする情けない大人達。
そんな大人を見ながら育って、
身内だけのノリを平然と全国に晒して、
物事の善し悪しすらしっかりと図れない、
そしてその悪事をまともに叱っても貰えない子供たち。

戦争とネット、状況は変わっても、
海に漂う海藻のように周りの声や考えに
安易に流されて、そんな矮小な自分に満足して、
斜に構えて生きている人々。
こんなに恵まれた世の中に居ながら、
恵まれてしまっているが故に
ハングリー精神に欠落し、自己正当化と、
自己肯定しかしようとしない人々。
わざわざ与えられた自由に対して、
自ら制限と檻を作って自分を守る。

行きたくもない戦争に連行され、
自分の信念を持って反戦を訴えれば、
拷問され、非難され、最前線に送られ殺された、
そんな自由すら叫べなかった人々は、
戦争が終わった途端に手のひらを返し、
「僕らは戦争は間違っていたと思う」
「戦争は二度と起こしてはいけないものだ」
「僕らは弾圧されていて自由な発言すら許されなかった」
っと訴える人々をみて何を思うのか。
今の情けない現代人を見て、一体何を思うのか。
H少年から見て現代人はどんな風にうつるのか。

映画や作品というのは、その情景や状況を見て、
誰かに思想を押し付けられるのではなく、
色んな思想を見ながら、
自分で物事を考えることができる。
大人や教師達が教えてくれない、
貴重な自分で感じ、調べ、考え、
学びとることができる文化です。

この映画は"自分で考える"ということを、
しっかりと伝えようと何度も何度も、
その点を繰り返し伝えてきます。
それは父親の言葉だけではない、
母親のまなざしであったり、
好戦家の理不尽な暴力であったり、
思想に染まった人々の理不尽であったり。
その全てが「自分で考える」大切さを、
何度何度も問いかけてくる作品です。

だからこそ、この作品は小中高生を
割引にしてもらって、
もっと沢山の人に見て貰いたいなっと思う。
そういう作品でした。

戦争ものとしてはやっぱりライトですし、
ちょっと当時としては言動等も含めて
人間性に対する考えはちょっと甘い面も
強くて、違和感があるのは否めませんし。
水谷豊という役者の印象が、
相棒の印象が強く、色々裏事情も聞いているため
やっぱりちょっと胡散臭い感じは否めませんが(苦笑)

そういう意味でも、戦争を考える為の
入門編的な映画としては最適ではないかなっと。
逆に大人でこの映画に満足してしまうのは、
ちょっといくらなんでも…っと思ってしまう面もあります(^^;

でも、こういう戦争映画は毎年
子供向けに流れる風潮ができるといいですね。
戦争を知っている世代がどんどん減って行っている今。
学校等でもそういった歴史を考える時間は
どんどん減っているようですし。

水樹