「戦中を描いているけれど、これは1個人の親子の家庭劇なのだ」少年H Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
戦中を描いているけれど、これは1個人の親子の家庭劇なのだ
妹尾河童の大ベストセラーの映画化と言う本作品だが、私は原作本を未読な為に、妹尾河童さんの自伝的小説だと言っても、この映画の何処までが、原作に忠実に描かれているのか、或いは、何処からが、映画独自のフィクションなのか、皆目見当が付かない作品である。
しかし、何だか真実味の無い、全く嘘の作り話の戦争当時の話と否定してしまうよりは、むしろ実話とは思えない程に、戦前の日本には、珍しく進歩的な考え方をしていた父親に育てられた少年Hのヒューマン家庭ドラマと言う事だろう思う。
これは、完全な1家庭で起きたストーリーの映画化作品であり、ファンタジー映画の類いであって、日本の、戦争を挟む、当時の真実を伝えるような、戦争映画では決して無いと思うのだ。
そして何よりも、作家が自分自身の幼少期を描いているのは確かなのだから、嘘の様でも、この映画で描かれているエピソードの数々は、実際にあった本当の話なのだろう。
素直に、当時には珍しく進歩的な、リベラルな思想教育をしていた親子の物語である。
この様な考え方をする家庭が生れた背景には、これはきっと戦前には珍しい、洋装であるスーツの仕立屋と言う特殊な職業を生業としていた、父盛夫の人生経験から生れて来た考え方なのだろう。
そして、それは神戸と言う港街ならではの、外国人を相手に商売をしている父、盛夫の無意識の内に、様々な顧客の考え方の影響を受けて人間的に育って行った盛夫の物語そのものでもある。彼は自然のうちに、コスモポリタンで自由で偏見の無い、総ての違いを受け入れる事の出来る、懐の大きい柔軟な人格者の父になっていったわけだ。
ここに、父と息子、そして母と子供、兄妹の理想の家庭の姿が描かれている作品だと言う事も出来ると思った。
確かに、当時の特攻警察にしては、甘い描写だと思うし、戦前では、あんな家庭は日本人の社会では村八分になってしまう家庭だった筈だ。
そんな、信じ難いエピソードの連続でも有る。だが、そんな戦前の希有な家庭の中に、社会の在り方に関係なく、自分の生き様は、自分で選んで行く事の大切さが、胸を打つ作品だった。
水谷豊と、伊藤蘭実際の夫婦でありながら、他人の夫婦を演じると言う事はどんな感じなのだろうか?何だか、返って俳優として演じ難いのではないかな?とも思ったが、このお二人がとても素晴らしかった。
そして、H少年を演じた吉岡竜輝の熱演も、可愛いのだ。昔に比べて、日本の子役も随分と最近では演技派になってきたものだと感心してしまう。それは妹を演じた花田優里音にも当てはまる。でも、一人の子役で、15歳まで演じさせるのには無理が有ると思う。良い作品だけに残念だったな~ 嫌味の無い良い作品だったので暗くならずに楽しめた。