冒頭から、いきなり持ってかれる。
「信二」も、「ベージュ」も、始まって間もなく、胸ぐらを掴まれるように映画の世界にぐいぐいっと引き込まれた。本作は、そんな威力に磨きがかかっている。「なんじゃあ、これは〜」と呟きたくても、そもそも息つく暇がない。
行き詰まると周りに当たり散らすばかりで、なかなか一歩を踏み出せない映画監督(未満)・大輔。そんなうじうじした男が主人公でも、物語はグダグダから程遠い。ラブストーリー、オカルトホラー、熱血青春もの…様々なジャンルをひょいひょいと跳び移りながら、エネルギッシュに駆け抜ける。
画面からはみ出るほどの迫力や強引さにうっかり見過ごしそうになるけれど、細かなところもスキがない。登場人物への想いと、映画への愛に満ちている。たとえば、「働け!」と母親が押し付ける求人誌には、ちゃんとふせんが貼ってある。お母さんはどんな思いで息子のために求人誌を読み込み、ふせんを貼ったのだろう…と想像はふくらむ。それから、桃子が大輔に振る舞う手料理・肉じゃが。「わあ、ありがち!」と思ったら…なぜか鍋ごと登場。ええ?という思いは、数分後にきっちりと、思わぬ方向で昇華される。思わずにんまりとした。
珠玉の3分11秒「ベージュ」でも感じたが、太一監督が描く、説教する男はなぜか不思議にかっこいい。私も説教されてみたい…なんて思ってしまう。うじうじうだうだしていたはずの大輔も、最後はキメる。彼は、様々な出来事を通していつしか成長していたのだろうか? …いや、これはきっと、成長だけではない。滅茶苦茶でも破れかぶれでも、伝えたいという一途な思いは人一倍、の大輔。きれいな言葉より、そんな必死さこそが「効く」、と改めて思った。自分はダメダメでも、大切な人には(自分のことを棚にあげて)真剣になれる。大切な人へのまっすぐな思いは、自分に対しても、まっすぐに向けられるはず。必死に紡ぎ出した言葉は、口にすることで自分にも響く。そうだ、自分だってまだまだ捨てたもんじゃない、と後押ししてくれるのだ。
人を励ますことで、自分も元気になる。文字にすると当たり前なことだけれど、日常の中ではなかなか実感しにくいことを、映画は確かな手応えとともに伝えてくれる。
(『信二』仙台短篇映画祭「新しい才能」公募選出作品
『ベージュ』オムニバス「311明日」(仙台短篇映画祭制作作品))